「ことばの番人」髙橋秀実著
「ことばの番人」髙橋秀実著
ネット全盛の時代、誤字脱字まみれで事実関係も危うい言葉が世に氾濫している。なぜ、そんなものばかりが目に付くのかといえば、そこには客観的視点を持つ他者が存在せず、書き手しかいないからだ。とすれば、実は世に優秀な書き手など存在せず、優れた校正者がいるだけなのではないか。本書は、そんな確信を抱いた著者が校正という緻密な世界に迫るノンフィクションだ。
著者は、伝説の校正者や校閲専門会社社長、日本語漢字辞典の編纂者、医薬品メーカーの校正担当者らへの取材を通して彼らの思考をたどる。そして日本語自体が、中国から輸入した漢字を複雑に使う言語だからこそ、校正が必須であるという事実に行きつく。本書がユニークなのは校正という作業が行われる場を、本や新聞などのメディアに限定せず、官報巻末に掲載されている正誤表や、日本国憲法における危うい日本語にも言及している点だ。
最終章では、私たちの人体内で行われているDNAの複製の間違いのたびに行われている校正作業にまで言及。ひとつひとつの照合を地道に繰り返す、校正から見えてくる世界が奥深い。
(集英社インターナショナル 1980円)