「タブー・トラック」羽田圭介著
「タブー・トラック」羽田圭介著
俳優の橘響梧が、ノンアルコールビールのCM撮影をしているシーンから物語は始まる。どこからも批判を受けない表現を求められるなか、仕事終わりに彼がこっそり立ち寄るのはマネジャーにも秘密の一台のキャンピングカー。防音性を高める内装を施したその車の中で、響梧はビールを飲みながらタブーワードを大声で叫んでストレスを発散するのが日課になっていた。
小さな火種から大炎上して消えていく同業者を見るにつけ、落ち着かない気持ちになっていた響梧だったが、ある事件の現場に居合わせたことで、なんとか均衡を保っていた心が激しく揺れ始める……。
響梧のほかに登場するのは、瞑想やウオーキング、食事管理のもと厳格に自らを整える脚本家の井刈蒔、不届き者をネットの書き込みで叩くことで上司のパワハラの鬱憤を晴らす日々を送っている会社員の中松優一、優一の娘で大学入試前ながらすでに動画配信で収入を得ている高校生の七海ら。
タブーだらけの世の中で、心にフラストレーションを抱えた人間が行きつく未来の姿に震撼させられる。 (講談社 2530円)