森朗(気象予報士)
2月×日 仕事上カタカナまみれになることが多い。気象の専門用語ならまだしも、ビジネス用語や情報技術用語になると、ついていけないどころかその場で呆然としてしまう始末。これって日本語で表せないものだろうか、と思って、中国文学者高島俊男の「漢字と日本人」(文藝春秋 990円)を読んでみたのだが、今度は日本語の複雑さを思い知るハメに。これまであまり考えてこなかった日本語と漢字について、学ぶことが盛りだくさんで、もっと早く読むべきだった。この分野、面白い。
2月×日 地球の気候を形作るものとして、大気や海洋、太陽からのエネルギーなどが挙げられることは、天気予報を生業としている者として当然の知識だし、それなりに学んできたつもりではあるのだが、土の関与は全く考えたことがなかった。ところが、さまざまなメディアでも活躍している土の研究者、藤井一至の「土と生命の46億年史」(講談社 1320円)を読んで、土と生命史にそんな関わりがあったのか、と気付かされた。中でも、土と生命誕生との件については、なるほど、と膝を打った。これはもう生命誕生の謎はすっかり解けたのではないか、とすら思ってしまう。さらに、読み進めると、鉱物の粒子と有機物の混合物である土と、植物、動物、微生物などの生物とのバランスと循環、その循環が気候に及ぼす影響まで、わかりやすく解きほぐしてくれる。その中で、今直面している危機を感じることになる。
2月×日 本土とは異なる沖縄の八重山地方の気候風土や動植物、人々の暮らしぶりを克明に観察、記録した第2代石垣島測候所長岩崎卓爾の志を受け継ぎながら、35歳の若さで世を去った正木任の足跡を、博物学者の盛口満が、さまざまな縁者への聞き取りを元に記したのが、「『ツトムの虫』を探して」(ボーダーインク 1980円)。実際にフィールドに足を運んでの自然観察、探究心の大切さをあらためて噛みしめる。そして戦争が憎い。