観光客も魅了する東京を深掘りする本特集

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「古地図で訪ねるあの頃の東京」荻窪圭著

 多くの人々を魅了し続けてきた東京という街は、あっという間に変化し続ける不思議な都市であり、今も変化の最中の一断面でしかないだろう。今回は、古地図、町を形成した人々など4つのコンセプトで、東京という不可思議な場を深掘りする本を紹介する。



「古地図で訪ねるあの頃の東京」荻窪圭著

 今やグーグルマップで簡単に地図を確認できるが、かつての東京を知ろうとした途端、ネットでは到底力が及ばないことに気づく。そんなとき、貴重な資料となるのが古地図だ。本書は、著者がコツコツ収集した東京の古地図をもとに、昔と今を重ね合わせながら、大正から昭和戦後の東京の変化や往来の姿をたどった書だ。

 主要な街や鉄道や駅の変化、戦中・戦後の地図が語る戦争前後の東京、区画や道路計画の足跡などについて、古地図と写真を豊富に掲載しながらフルカラーで解説している。軍事施設やインフラ、皇居などを意図的に描いていない「戦時改描」と呼ばれた地図や、終戦の1年後に発刊された空襲で焼失した地域を示す戦災地域要図の解説あり。さらに広げて見られる大正7年と昭和10年の大判地図付きという豪華版だ。 (実業之日本社 2420円)

「誰がこの町をつくったか」 三浦展著

「誰がこの町をつくったか」 三浦展著

 花街から住宅地まで、さまざまな特色を持つ町を有する東京が、どんな人々の思いや行動によって形作られたかに焦点を当て、それぞれの町の足跡をたどる本。娯楽、風致地区、教育・キリスト教の郊外住宅地、田園都市・文化村、その他の5つの柱に分類し、町を形作った人々を紹介している。

 たとえば、歌舞伎町。その名がついたのは歌舞伎劇場の建設予定地だったからだ。鈴木嘉兵衛という計画者が、都市計画での夜の娯楽の必要性を説いた石川栄耀と共に「広場を中心とした芸能施設を集め、新東京の最健全な家庭センターにする」という理念のもとでスタートさせた。ところが建築統制で計画が頓挫。代わりに将来、劇場や映画館に転用可能な産業館や社会教育館などが建設された。馴染みの町の知られざる歴史が見えてくる。 (而立書房 2420円)

「新宿をつくった男フリート」 横田著

「新宿をつくった男フリート」 横田著

 終戦後、東京大空襲によって焼け跡となった一角に「光は新宿にあり」という惹句を掲げて闇市を組織した男がいた。その名を尾津喜之助。

 関東尾津組組長で、東京のテキヤの総帥でもあった尾津は、闇市をつくり、炊き出しを行い、無料診療所や無料葬儀社をつくり、商工会議所設立に尽力したかと思えば、土地の不法占拠や恐喝で訴えられ、20余年は獄中で過ごした。

 本書は、ある時は英雄として、ある時は任侠のように新宿をつくった男として語られてきた尾津の生涯を、戦後闇市から復興していく昭和史と共に追ったノンフィクションだ。尾津は喧嘩や刃傷沙汰などが絶えない少年時代や放浪生活を経て、先を読む才覚と行動力、凶暴さとあつい人情を駆使し大混乱の新宿を切り開いた。一筋縄ではいかない濃厚な人物像が浮かび上がってくる。 (毎日新聞出版 2090円)

「上野がすごい」滝久雄、柳瀬博一編著

「上野がすごい」滝久雄、柳瀬博一編著

 そもそも上野は徳川家康の側近として活躍した天海(1536~1643年)が、今でいうランドスケープデザインを描いたことから始まったという。寛永寺をつくり、不忍池には紅白の蓮、今の国際子ども図書館の通りにはもみじを植樹するなどして上野の山の環境整備をした。

 明治になると日本初の西洋式都市公園である上野公園が開園し、やがて東京国立博物館や国立科学博物館が開館。こうした文化施設が1カ所に集結している場は日本はもちろん、世界でも稀である。さらに上野・谷根千エリアには江戸以来の風情が残り、自然も豊かだ。谷中一帯を航空写真で見ると緑が多い寺院が連なって広がり、周囲を薄く取り囲むように町屋が立っている。こうした景色が今も残るのは、バブル期に押し寄せた開発の波に地元の町会などが中心となって見直し運動をして守ったからだという。

 建築家の隈研吾ら“上野のプロ”7人が歴史や地形、鉄道など7つのテーマで「上野のすごさ」を熱く語る。 (中央公論新社 1870円)

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