個性派勢ぞろい!文庫本刑事小説特集

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「世界の望む静謐」倉知淳著

 大沢在昌氏の代表作「新宿鮫」に登場する新宿署の鮫島や、東野圭吾氏が生み出した警視庁捜査1課の加賀恭一郎など、警察小説には個性豊かな刑事が欠かせない。今週は、彼らに負けず劣らずの個性的な刑事たちが活躍する警察小説を紹介する。



「世界の望む静謐」倉知淳著

 漫画編集者の桑島は、国民的人気の連載漫画「探偵少女アガサ」を担当。ある夜、桑島は作者の椙田から半年後に連載を終わらせると宣告される。「アガサ」は会社のドル箱で、桑島は翻意を促すが、椙田の決意は固い。

 椙田は桑島が納得しないなら、この場でSNSで発信して後戻りできないようにすると、スマホを手にする。何とか椙田を止めようとした桑島が気付くと、手にしたハサミが椙田の心臓に突き刺さっていた。桑島は、現場を物取りの犯行に偽装してその場を去る。

 死に神のような風貌の刑事・乙姫から事情聴取を受けた桑島は、犯人が現場に鍵をかけて逃走したのが疑問だと言われ、内心焦る。それは桑島も悩んだことだが、生原稿などのお宝でいっぱいの椙田の仕事場を無施錠に放置することができなかったのだ。(「愚者の選択」)

 ほかにも、元スターなどの殺人犯を乙姫が刑事コロンボばりの言動で追い詰めていく人気倒叙ミステリーシリーズ最新刊。 (東京創元社 1034円)



「刑事図鑑 逮捕状」南英男著

「刑事図鑑 逮捕状」南英男著

 人気ニュースキャスターの椎名の不審死体が自宅の浴室で発見される。状況から硫化水素による自殺と思われたが、検視の結果、他殺と判明。警視庁捜査1課の加門が率いる第5係も捜査本部に加わる。犯行時、妻の紀美は外出中で、防犯カメラの死角となった非常口からマンションに侵入した犯人が入浴中の椎名を溺死させ、死後に自殺の偽装をしたようだ。

 捜査が進む中、椎名が番組で大物政治家の不正疑惑を報道した直後から、テレビ局に椎名宛ての脅迫状が届いていたことが分かる。その中の一通に、椎名が新聞記者としてロンドン赴任していたときの秘密を暴くと記されていたという。一方、現場の脱衣所からゴールデンレトリバーと思われる犬の毛が見つかるが、椎名家ではペットを飼っていなかった。(「殺意の交差点」)

 エリート刑事・加門が監察官や、生活安全課などのさまざまな立場の同僚捜査官と事件を解決していく短編集。 (実業之日本社 902円)

「県警本部捜査一課R」松嶋智左著

「県警本部捜査一課R」松嶋智左著

 県警本部捜査1課の警部・玲が率いる班に、女性巡査長の紫藤が配属されてきた。班員はくせ者ばかりで、教育係にはふさわしくない。しかたなく、紫藤を班長付にして玲と行動を共にすることに。

 そんな中、コンビニ強盗が発生。犯人はレジにあった30万円を奪い、店長の悦吏子を切りつけてバイクで逃走したという。悦吏子は夫の死後、1人でコンビニを切り回し、レジの30万円は大学生の娘の学費の支払いに用意していたものだという。

 やがて、前夜に悦吏子と揉めて辞めた店員の滝田が捜査線上に浮かぶ。犯行時の防犯カメラの映像を見た店員の郁美が滝田によく似ていると証言したのだが、改めて映像を見た悦吏子は滝田ではないという。捜査が進む中、交際中の滝田に捨てられた郁美が、腹いせで証言したことが分かる。(「フレンドールの変」)

 推しのフィギュアスケーターの応援に駆け付けるために仕事に励む38歳の独身女性警部を主人公に描く連作警察小説集。

(徳間書店 880円)

「氷の轍」桜木紫乃著

「氷の轍」桜木紫乃著

 北海道警釧路方面本部の刑事・真由は、海岸で見つかった老人の他殺体の事件を捜査。やがて被害者が、札幌在住の元タクシー運転手・滝川と判明する。

 生涯独身で身寄りもない滝川が暮らしていたアパートの部屋を調べた真由は、本棚の古い北原白秋の詩集に目が留まる。滝川が詩集を買った古書店主によると、その詩集は青森に住んでいた滝川が若い頃に好きだった女性に贈ったもので、古書店で偶然再会して涙を浮かべていたという。

 捜査が進む中、滝川が事件前に釧路の和商市場内にあるかまぼこ店に立ち寄っていたことが分かる。経営者の妻・小百合によると、夫の仁志が店の印鑑を持ち出したまま、家に戻っていないらしい。聞き込みを進める中、真由は「小百合は仁志の父親が、息子の嫁にと青森から連れてきた女性だ」と知る。その父親は20年前に工場の火災で死んでいた。

 元警官の父親の不倫相手の子として生まれ、血のつながらない母に育てられた女刑事を主人公にしたシリーズ第2弾。

(講談社 913円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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