明日も頑張って働こう!やる気が出るお仕事小説本特集
「医療Gメン氷見亜佐子ペイシェントの刻印」本城雅人著
私たちが生涯で仕事に費やす時間は、およそ10万時間といわれている。嫌でもこれほど膨大な時間を費やすなら、モチベーション高く働こうではないか。今回は、大変だけど楽しい、やる気をアップさせてくれるお仕事小説を紹介しよう。
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「医療Gメン氷見亜佐子ペイシェントの刻印」本城雅人著
霞が関の厚生労働省庁舎にある医政局・医務指導室。ここにいる職員は医療監視員と呼ばれ、半分は医師免許を持つ医系技官だ。氷見亜佐子も昨年、大学病院の臨床医から医系事務官に転職したばかりだった。
厚労省の地方厚生局では「マトリ」と呼ばれる麻薬取締官に逮捕権が与えられている。しかし医務指導室の医療監視員にはそれがなく、できることは立ち入り検査をして病院の不正や誤った医療行為を見抜くことぐらい。その状況から亜佐子は、腐敗した日本の医療を正したいという情熱を持って医師を辞めてここにいた。ある日、東京フロンティア医大付属病院の術中死のタレコミ電話が入る。調べてみると、半年前にも不審な術中死があったことが発覚。本格的な調査に乗り出そうとする亜佐子だったが、政治的圧力やお役所の慣例に阻まれてしまう。
クセの強い同僚や刑事たちとともに病院の巨悪に挑む、痛快なお仕事小説だ。
(集英社 880円)
「人形姫」山本幸久著
「人形姫」山本幸久著
昔ながらの手仕事でひな人形を作り続ける森岡人形。創業180年の老舗で、現社長の恭平は8代目となる。
30歳まで職人としての腕を磨き、その後、会社のあれこれを引き継ごうと恭平は考えていた。ところが27歳のときに先代の父が急死。おかげで帳簿の見方すら満足に分からない状態で社長職を引き継ぐ羽目になった。それから10年。職人の数は半分以下になり、残っている職人も上が77歳、最年少でも68歳と高齢化が著しい。10年後には誰一人いなくなるのではという恐怖と闘いながら、恭平は日々の仕事をこなしていた。
そんな折、履歴書を携えてひとりの女性が訪ねてくる。彼女は職人たち行きつけのパブで働くクリシアというフィリピン人で、職人が酔った勢いで「弟子にしてやる!」と豪語したらしい。かくして風前のともしびだった老舗人形店に、新しい風が吹き込み--。
職人不足の老舗企業を舞台に繰り広げられる、すべての働く人に向けられた応援譚。
(PHP研究所 1078円)
「サラリーマン球団社長」清武英利著
「サラリーマン球団社長」清武英利著
ごく普通のサラリーマンが、プロ野球界という特殊な世界で経営を任される……。そんな漫画のような“実話”を描く本書。
1996年、野崎勝義は阪神タイガースへの出向を命じられる。阪神電鉄に入社以来31年間、一度も転部することなく航空営業一筋で歩んできた“旅行マン”だった。しかし、球団の更迭人事に巻き込まれる形で、低迷が続くタイガースの常務取締役を押し付けられてしまう。
同じ頃、広島東洋カープ営業部の鈴木清明は、今日球場に何本のちくわを仕入れるかに頭を悩ませていた。彼は東洋工業(現マツダ)の経理部員だったが、安定した職場を捨てて市民球団ゆえに赤貧にあえぐ広島カープに転職。球場のフードの仕入れからドミニカ共和国でのグラウンドづくりまで、球団立て直しのために奔走していた。
実は著者も読売新聞記者から読売巨人軍球団代表に就任した。異色の経歴を持つ者同士だからこそ描けた渾身の企業ノンフィクションだ。
(文藝春秋 902円)
「この世にたやすい仕事はない」津村記久子著
「この世にたやすい仕事はない」津村記久子著
「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」
職業紹介所にそんな相談をする「私」。燃え尽き症候群で前職を辞し、新たな仕事を探す主人公に相談員はキラリと眼鏡を光らせ、「あなたにぴったりな仕事があります」と言う。ここから奇妙な仕事を転々としていく物語が始まる。
全5話で構成されているが、いずれも“ありそうでなさそう”な仕事ばかり。たとえば1話で従事するのが、「モニターでの作家の見張り」。何かの密輸品を預かっているらしく、それを突き止めるために隠しカメラで監視するのだが、だらだらと過ごす作家を見続けるだけでくたびれてしまう。
バスのアナウンス原稿の編集、「おかき」のパッケージの文案作成などさまざまな仕事を経験しながら、それぞれの仕事の苦労を知っていく主人公。最後にはどんな仕事に行きつくのか。奇妙な仕事の連続にクスッとさせられながらも、働くということの基本に立ち返らせてくれる。
(新潮社 825円)