岡江多紀「真昼の秘めごと」(昭和61年・光文社CR文庫から)
【あらすじ】この世に男と女がいる限り、さまざまな物語が生まれる。不倫、ゆきずりの恋、セックスペット、レズビアンと多様な性愛が――。「真昼の秘めごと」「赤い陰画」「微熱天使」「肌色の罠」「ゆがんだイルミネーション」「乾いた炎」など、11編の短編が女性ならではの視点で書かれた官能ロマン。
節子が入っていったのは、一番隅にあるドアだった。ドアの上には「資料室」と書いたプレートが貼ってある。
「どうしたの、こんなところ……」
渡辺が言い終わらないうちに、節子が飛びかかるように抱きついて、唇を塞いだ。舌をさし入れて、渡辺の舌を思いきり吸う。その間にも胸といわず、腰といわず、体をグイグイ押しつけていく。
「ねえ、我慢できないのよう」
「おい、待てよ。こんなところで」
「大丈夫、誰も来やしないわ、こんな部屋」
資料室というのは、古い書類や統計、社内報のバックナンバーなどが置いてある部屋だ。つまりオフィスには不必要で、かといって捨てることもできないものが詰め込んであるだけの、物置のようなものである。就業時間中は一応鍵は開いているが、利用する人など滅多にいないと言っていい。
「ねえ、いいでしょ」
囁くなり、節子は渡辺の前に膝をついた。ベルトをガチャガチャいわす。
「待てよ。まずいよ」
「大丈夫だって」
とうとうファスナーをひき下げ、節子の手はブリーフの中から、渡辺のものを取り出した。
「おい、やめろったら」
「いや!」
根元を支えて、いきなり口に含む。
「おい、節ちゃん」
舌を這わせ、唇でしごく。蒸れたような匂いが、節子の口一杯に拡がる。それさえも、今の節子には涙が出るほどいとおしい。
「おい……節子ったら……」
渡辺の声が弱々しくなった。それもそのはず、節子の巧みな口の愛撫に、渡辺のそれは着実に硬くなっている。
付け根の部分が痺れるくらいに、節子は必死で舌をそよがせた。
「ああ……」
(中略)
渡辺は節子の体を返すと、スチール製の書類棚の方を向かせ、そこに両手をつかせた。溢れ出た蜜で充分に潤った道に、硬いものは、ググッと後ろから入ってきた。
(構成・小石川ワタル)
▽おかえ・たき 1953年、神奈川県生まれ。早稲田大学文学部卒。79年、「夜更けにスローダンス」で、小説現代新人賞を受賞。84年、初の単行本、「夜はシルクの肌ざわり」(有楽出版社)を刊行以来、推理小説、官能小説を次々発表し、人気作家に。現在、66歳。