<第9回>映画に出るか出ないかは「ホン」のひと言で決めた
本人の言葉が「高倉健インタヴューズ」(プレジデント社)のなかに載っている。
「出演する映画を決めるにはまずホン(脚本)のなかに一言でもいいから、ゾクゾクッとくるセリフがあればやることにしています。ただ、『急いで読んでくれ』と頼まれても、それは無理です。ホンは体調を整えて真剣に読まないと、受ける印象が違ってしまいます」
また、この作品は共演者に恵まれた映画だ。妻役の加藤登紀子は終始、抑制された演技を見せる。一方で、はじけた演技を見せるのが「喝采」などで知られる歌手のちあきなおみ。彼女の夫は高倉健が可愛がった俳優、郷鍈治(宍戸錠の実弟)だ。当初、ちあきは気乗りしなかったが、夫の郷が「健さんの映画だから」と勧めたために出演した。ちあきは1992年に夫を亡くし、以後、表舞台には出ていない。この映画のなかでは他の出演者を圧倒している。
もうひとり、強烈な印象を残す役者がいる。美里英二。旅回りの役者だった美里を降旗監督が抜擢したものだ。
美里がやる役は居酒屋兆治の常連で、カラオケ狂。造船所の工員なのだが、廃船をカラオケルームに改造し、夜な夜な女装しては歌をうたいまくる。