<第9回>映画に出るか出ないかは「ホン」のひと言で決めた
「なぜ、このシーンがあるのだろう」と不思議に思えてくるが、彼も独特のエネルギーと存在感で他の役者を圧倒している。本作は高倉健の魅力だけが目立つ映画ではなく、アンサンブルの妙、脇役陣の確かさを感じる映画だ。
降旗監督は高倉健の役どころについて、こう語った。
「居酒屋兆治の主人公は名もない庶民です。立ち回りもなく、庶民が黙々と自分の務めを果たす映画です。キャラクターに魅力がある主人公ではありません。しかし、私はあの時期、健さんはヒーローよりも一般の人間を演じたいのではないかとふと思ったのです」
▽のじ・つねよし 1957年生まれ。美術展のプロデューサーを経て作家活動へ。「サービスの天才たち」(新潮新書)、「イベリコ豚を買いに」(小学館)など著書多数。最新刊は「アジア古寺巡礼」(静山社)。「高倉健インタヴューズ」(プレジデント社)が話題に。