珍現象? 3週連続で公開された“中高年向け映画”全ヒット
映画興行に中高年が戻ってきた。3週連続で登場したヒット作に、中高年の観客が目立っているのだ。今、ファミリー層や若者層が幅をきかすシネコン=映画館に、異例なほど中高年の観客が押し寄せている。
公開順に、興収見通し(推測)を――。「64―ロクヨン―前編」が20億円近く、「殿、利息でござる!」が13億円前後、「海よりもまだ深く」が10億円前後。いずれも40代以降の観客がかなりの割合を占め、3週連続というのが現象としては珍しい。
それもサスペンス、時代劇、家族劇とそれぞれジャンルが異なる。うまく観客が分散して、振り分けられたとも言えようか。
どれも深く骨太な人間ドラマとして、見応え十分であることも見逃せない。大人の観賞に堪えうる作品は小手先の映像のテクニックだけでは生まれない。人間を描く視点の確かさが大切で、いずれ劣らない出来栄えに仕上がっている。
例えば、公開されたばかりの「海よりもまだ深く」は主演の阿部寛の評判がすこぶるいい。ギャンブルにのめりこむ中年ダメ男で、これは彼の演技の新境地と言ってもいい。母親役の円熟した樹木希林の演技ともども、広範囲の女性層に受けている理由だろう。とくに中高年の女性が目立ち、水曜日(25日)のレディースデーには主婦が大勢詰めかけ、土日と遜色のない入りだった。
中高年向きの作品はこれからの映画界にとってとても大切だ。今後この層は団塊世代も含め、もっと増える。映画界は映画を中高年の趣味のひとつに定着させるくらいの意気込みで、充実した作品を送り出すべきだ。
(映画ジャーナリスト・大高宏雄)