草彅剛の“変身”が見もの 「嘘の戦争」飽きさせない仕掛け
初めて草彅剛の演技に注目したのは、97年のドラマ「いいひと。」だ。その後、03年から06年にかけて放送された、「僕の生きる道」「僕と彼女と彼女の生きる道」「僕の歩く道」で、その評価は一気に高まっていった。
最近では、15年の「銭の戦争」だ。連帯保証人になったことから、金も仕事も婚約者も失った男の復讐劇。一見おだやかで優しそうな草彅が演じるからこそ、主人公の執念が際立っていた。
この「嘘の戦争」もまた復讐劇だ。30年前に家族を殺された男が詐欺師となり、事件の関係者を次々と破滅させていく。その過程で見せる草彅の“変身”が見ものだ。気弱な失業者も、精悍なパイロットも、いかにもそれらしい。「他人(ひと)をだますには自分をだますんだ」のセリフが草彅の演技論に聞こえる。
事件の黒幕であり、最大の敵でもある実業家(市村正親)。その長男(安田顕)を取り込み、跡継ぎである次男(藤木直人)の追及をかわし、彼らの妹(山本美月)を凋落する草彅。連ドラながら、毎回のエピソードにきちんと決着がつくため、見る側を飽きさせない。このメリハリは、「銭の戦争」と同じ後藤法子の脚本のお手柄だ。
ちなみに、「僕」シリーズの脚本を書いた橋部敦子が現在手掛けているのは、木村拓哉の「A LIFE~愛しき人~」。こちらもまた因縁の勝負である。
(上智大学教授・碓井広義=メディア論)