ベールに包まれた森田童子さん 時代の“痛み”背負い生きた
本名は非公開、常にトレードマークのサングラスをかけて素顔は明かさず、引退後は私生活を公表することなく、自分の死さえ隠し通したシンガー・ソングライターの森田童子さん(享年65)。4月24日の死去から1カ月半後の6月11日にJASRAC会報の訃報欄で初めてその死が公になった。
1975年にレコードデビュー。ライブハウスを中心に活動し、熱狂的なファンを獲得したが83年に引退。93年に放送されたテレビドラマ「高校教師」の主題歌に使われた「ぼくたちの失敗」は100万枚に迫る大ヒット。メディアの取材や再デビュー要請が殺到したが、「今は普通の主婦。そっとしておいてほしい」とかたくなに沈黙を守り、最後まで表舞台に復帰することはなかった。
なぜか。それは、彼女の歌が「時代の痛み」を共有するものだったからだ。
デビュー曲の「さよならぼくのともだち」は70年安保の学生運動で挫折した若者たちへの哀切に満ちた挽歌であり、明るいラブソングは、ドロップアウトした孤独な若者の痛みに寄り添っていた。