スタジオジブリ鈴木敏夫編<後編>初仕事が人生に影響与える
魑魅魍魎が跋扈するアニメビジネス界で「怪物鈴木」とも呼ばれる片鱗にチラッと触れることがある。もちろん、この私も数年に1度くらい、ビジネスの話でビシッと断られることもある。その場合「(笑)」はない。しかしその後、断られた感じを引きずられることは決してなく、ビシッと何故それが難しいかを簡潔に説明した文章の後、「ご理解下さい」とくる。どう考えても二度と話は持ちかけられないし、次にお会いしたときもまったくその話がなかったかのように和やかである。
そしてまた、ふと思い出すのは都心の鈴木さんの隠れ家兼打ち合わせ場でドワンゴの川上量生さんが私に「鈴木さんて、本当のことしか言わないんですよね」と私に言ったことだ。もちろん、鈴木さんも百戦錬磨の大人だから、交渉や対話におけるさまざまな高等テクニックを持っているのは当然だが、そのときもほとんど「嘘」はつかないし、お追従は言わない。相手がそれなりの脳みそを持っていれば鈴木さんが柔らかい言葉でやんわりと断っていることが、判然とする。一方、前向きに「やりましょう」と言ったときには一点の曇りもない。これは大小どんな相手でも変わらないのだ。もちろん鈴木さんにとって「面白いもの」は面白いし、「つまらないもの」はつまらないので、言葉に出さずとも鈴木さんを見ていればその表情や姿から明らかにわかる。天下の大新聞に講演を頼まれ「皆さん。本当のことを書いて下さい」と言い放ったというのだから、年季が入っている。