湯川れい子さん語る エルビスとのキスと結婚証明書サイン
内外のビッグアーティストとの深い親交で知られる音楽評論家の湯川れい子さん(82)。数多くの貴重な写真の中でも、「キング・オブ・ロックンロール」、故エルビス・プレスリーと撮った、とっておきのものがこれだ。
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「お祝いのキスをしてください!」
忘れもしません。1973年8月10日、米ラスベガス・MGMグランドホテル内のエルビスの控室。私はこう言って唇にキスを求めたのです。
彼は驚いた表情で、ポッと頬を赤く染め、隣にいた私の夫に尋ねました。
「本当によろしいですか?」
「もちろんです。どうぞどうぞ、ボクがして欲しいくらいです」
夫も夫ですよね。こんなジョークで返すんですから。すると、彼は表情を緩め、握手をしてチュッと唇を重ねてきました。むきたてのミカンのように、柔らかくてひんやり。その感触は今でもしっかり覚えてますよ。
この日、私たちはラスベガスの教会で結婚式を挙げ、エルビスに結婚証明書に証人としてサインをしてもらいました。その時の記念写真がこれです。撮ったのは彼のオフィシャルカメラマン。その直後に「何が欲しい?」って尋ねられキスをねだったんです。サインをいただき、さらにキスまでって随分と欲張りですよね(笑い)。
もちろん彼は超多忙でしたし、世界各国のVIPでさえもおいそれと会えない本物のスーパースター。結婚証明書にサインしてもらうなんて、そう簡単に話が進むわけはありません。
当初、個人的にも親しくしていた彼のアシスタントマネジャー、トム・ディスキン氏に依頼したんです。すると、「王女さまとか大統領の娘とかそんな人たちの結婚式にいちいち関わっていたら、5年先までスケジュールが真っ黒になってしまうよ」とあっさり断られてしまいました。
それも当然です。でも私はある作戦を思いついたのです。その年の1月14日、エルビスは当時、報道番組専用だった人工衛星を使って、全世界36カ国に同時生中継した史上初で最後のチャリティーコンサート「アロハ・フロム・ハワイ」をハワイで行いました。
日本では午後7時のゴールデンタイムで放送され、2月初めにRCAレコードから同タイトルの2枚組アルバムをリリースしたのです。そのライナーノーツを私が担当。25万枚を超すセールスを記録したので、私がプレゼンターとなって記念のゴールドディスクをエルビスに贈呈することにしてもらったのです。それに夫も便乗して渡米。エルビスが公演中のラスベガスで結婚し、サインしてもらおうというわけです。
この案にはエルビス側も快諾してくださり、「お相手をお連れください」って。挙式後、その足で控室へ向かいました。だから、彼は胸元がはだけたステージ衣装なんですよ。