勘九郎の“けなげ”を見る 低迷「いだてん」を楽しむヒント
そういう勘九郎の持って生まれた運命も、〈ひたむきでけなげな人物〉を演じさせたら秀逸というところにつながっているのかもしれない、と辻氏は言う。さらには、幼い頃から父に厳しく稽古をつけられてきたことも影響しているのではないかと推測する。
「勘三郎さんが、長男である勘九郎さんには特に厳しく接していたというのは有名な話ですが、勘九郎さんはどんなに叱咤されてもひたすらに食らいついた。中村屋のお家芸である鏡獅子で、我を忘れて一心不乱に舞うさまを見ると、そんな彼のこれまでの生き方が表れているように思えて、胸を打たれます。だからけなげで懸命な役を演じると、見る者の心を掴むのでしょう」
親子そろって役者となると、親のイメージを踏襲する子供も多い。年齢を重ねた勘九郎にその可能性はあるのか。
「中村屋の総帥となった後も、勘九郎さんには、いい意味で重量感や大物感がない。非常に軽やかなんですね。それが役を演じる上で彼の強みでもある。勘三郎を襲名しても、きっと勘九郎さんには勘九郎さんの味わいが出るのでは? 彼の持ち味であるけなげさや懸命さが年を重ねてどう化けるのか、『いだてん』を見ながらそんな想像をするのも楽しみのひとつです」(辻氏)
勘九郎の“けなげな演技”は一見の価値アリ。「近世なんて大河じゃない!」と食わず嫌いになるのは損ですよ。