8月納涼歌舞伎で手腕発揮「演出家」坂東玉三郎の面目躍如
■舞台装置に頼らず役者で勝負する
玉三郎の演出は、舞台装置がほとんどなく、小劇場的というか半世紀前の前衛っぽい。歌舞伎はやたらと過剰なものだが、演出家・玉三郎はミニマリズムを志向する。しっかりした役者が立っていれば、舞台装置なんて必要ないという自信でもある。七之助と市川中車もその期待に応えている。原作をかなり脚色して、「玉三郎自身の物語」に作り直している。
前半で、七之助演じる先輩役者が病死するのだが、その場面で玉三郎演じる雪之丞が吐露する心情は、玉三郎自身の、勘三郎の早過ぎた死への無念の思いに聞こえ、虚実の区別がつかなくなる。
舞台に巨大モニターを設置して映像を映し出すのも、新趣向。映画監督でもある玉三郎が、舞台に映像を融合させたくなるのは自然なことで、彼のイメージにテクノロジーがようやく追いついたのだろう。映像の使用には批判もあるだろうが、こういう芸当は玉三郎にしかできないのだから、やれるところまでやってほしい。ただ、モニターが舞台の奥にあるので、3階席からだと上部が見切れてしまう。改善してほしい。
(作家・中川右介)