八千草薫さん「美しさと哀しみと」で見せた底知れない怖さ
八千草薫さんが逝った。享年88。八千草さんほどの大女優になると、「昭和を代表する女優が亡くなった」と毎回のように報じられるが、彼女は平成の活躍も見事なものだったと思う。昭和に限定して語ってほしくない。
八千草さんといえば、最近では倉本聰脚本のテレビドラマ「やすらぎの郷」(2017年)での清楚な姿が頭に浮かぶ。少しのんびりした感もある戦前からの大女優の役柄がとても似合っていた。
なかでも瞠目(どうもく)したのが、時折見せる心根の芯の強さだ。彼女の魅力として可憐さや美しさがよくいわれる。確かにそうだが、そこに強さが重なるととんでもない凄みを帯びる。強さで思い出すのが、川端康成原作、篠田正浩監督の傑作「美しさと哀しみと」(1965年)だ。
八千草さんは京都に住む画家の役で、弟子役の加賀まりこと愛し合うのだが、あることで加賀が挑発した後に見せた八千草さんの行動が凄まじい。加賀の両頬を交互に叩いたのち、さらに怒りが爆発して縁側にあった鳥籠を蹴飛ばすのだ。映画史上、鳥籠を蹴飛ばした女優は彼女だけではないか。