先駆者ナベプロ誕生から65年…芸能プロは大変革時代に突入
「芸能人の地位向上、待遇改善」を主目的に1955年に誕生した渡辺プロダクションが先導者となりスタートした芸能プロダクション。その後は新規芸能プロも続々参入して、今や巨大ビジネスへと変貌を遂げた。ナベプロ誕生から60年以上が経った2019年は、ジャニーズ事務所を創業したジャニー喜多川氏(享年87)も逝去するなど、芸能ビジネスも変革の時代を迎えている。
公正取引委員会が初めて芸能界にメスを入れたのは2019年7月のことだった。17年にジャニーズ事務所から独立した元SMAPの3人(草彅剛・稲垣吾郎・香取慎吾)が地上波の番組から消えたのは、元事務所が「3人を使わないように圧力をかけたのではないか」との疑惑を調査。事務所もテレビ局側も圧力を否定するものの、公取委は動きを加速。過去のタレントと事務所の間の独立を巡るトラブル、芸人の闇営業発覚に伴う不透明な契約とギャラの問題まで明らかになった吉本興業といった事案も出てきた。そのことから、「移籍、独立したタレントに前事務所が出演先のテレビ局などに圧力をかけ、芸能活動を妨害することは独占禁止法に触れる」との新たな規律を設けた。
「事務所から直接の圧力はなくとも、昔からジャニーズ事務所など大手事務所にテレビ界が忖度するのは暗黙の了承事項。今後は事務所よりもテレビ局側がどう出るかが焦点です。香取らも地上波に少しずつ復帰しているが、越えられない壁もある。歌番組などは現役ジャニーズとのバッティングを避けたい局側が忖度するため、完全解禁までは時間を要する」(民放番組関係者)
旧態依然とした芸能界の体質が問題視されているが、現在の芸能プロ経営は原点回帰が大きな特徴。新人の発掘・育成を目指す事務所が多い。
「オーディションの公募で金の卵を見つけられる時代。夏休みの時期に大手事務所はネットなどで告知して積極的にオーディションをやっている。合格した子は無料でレッスンを受けさせて育てる。後の売り出し方は事務所の手腕ですが、ゼロから育てる昔ながらの芸能ビジネスが主流になっている」(芸能プロ幹部)
中でも特に力を入れているのが俳優部門だ。
「歌手は今年、音楽界の話題を独占した米津玄師のように、事務所が育てるというより独自に活動してきた人をレコード会社がいかにプロデュースするか。事務所が歌手をつくる時代ではない。一方、俳優は事務所のサポートなくして生まれない。俳優は寿命も長いし、人気次第でCMにも直結しやすくビジネスチャンスは広がる。小さな事務所も俳優に力を入れてくる」(前出の芸能プロ幹部)
今年のNHK朝ドラ「なつぞら」で“国宝級イケメン”と評された吉沢亮(25)も、福山雅治らが所属するアミューズのオーディションに15歳の時に応募したのがきっかけだった。朝ドラで一気に人気が開花し、21年の大河「青天を衝け」の主役の座まで上り詰めた。
「吉沢のようなスターをつくると、応募者はさらに増えて活気づき、事務所は好循環する。ジャニーズが50年以上続いているのもアイドルを絶え間なくつくり続けているからです」(前出の芸能プロ幹部)
ドラマは主役、脇役を問わず事務所の椅子取りゲーム。とりわけ競争が激化しているのがNHKの朝ドラ。コンスタントに20%台の視聴率をあげ、半年に及ぶ放送期間は最大の魅力だ。新人、無名俳優にとって朝ドラ出演はスター街道だが、朝ドラには原則、厳しいオーディションがある。現在放送中の「スカーレット」で主人公役の戸田恵梨香の相手役として、一躍注目されている松下洸平(32)は何度もオーディションを受けようやく起用された。
朝ドラだけでなくNHKには政財界御用達ドラマと呼ばれる大河もある。事務所も必然的に力が入るが、忖度のないNHKでは斡旋も一苦労。そこでモノをいうのが事務所の実績と貢献度だ。過去に何人も朝ドラや大河に送り込んでいる事務所は、やはり信頼関係を構築していることもあってNHK側の受けもいい。おのずとNHKに強い事務所もはっきりしてきている。くだんのアミューズの他に、綾瀬はるか、鈴木亮平が大河に主演しているホリプロ。葵わかな、永野芽郁と17年後期、18年前期の朝ドラに2期連続で主演女優を輩出したスターダスト。菅田将暉ら若手男性俳優が充実するトップコートと、やはり若手俳優を多く抱え、なおかつ新人の育成にも余念のない大手事務所が強い。
令和も大手事務所がドラマ界の中心を担うことになるが、他にも侮れない事務所がひしめき合う。沢尻エリカの代役として来年の大河「麒麟がくる」に出演する川口春奈の所属する研音には朝ドラ・大河と実績十分な杉咲花もいる。俳優ブームを見込んだように最近は俳優を主体にした事務所も増えており、代表格が来年本格的にハリウッド映画に挑戦する小栗旬らを擁するトライストーン。中小の事務所は、少数精鋭でドラマ界の旋風を巻き起こす要素にあふれている。
実力優先、適材適所で俳優を起用するNHKのドラマづくりは、視聴者も求めている時代。それに対応できる俳優を送り出せるかが、芸能事務所の成否のカギを握っている。
テレビ番組の大半を占めるバラエティーの構図は令和も変わることなく、お笑いタレント専科の事務所の椅子取りゲーム。それも吉本興業を中心とした関西芸人と、少数精鋭の芸人を擁する事務所が群雄割拠する東京の戦いだ。今年、闇営業に端を発した吉本のお家騒動も自然消滅するように決着。チュートリアル徳井義実の税金未払い事件など個々のスキャンダルは相変わらず多いが、それを打ち消してしまう芸人の数と質の高さを誇るのが、吉本の絶対的な強み。
「松本人志のMC番組を吉本芸人だけで構成できるのが吉本。バラエティーは吉本なくしてできない。徳井や宮迫が抜けた穴も別の芸人で埋められる」(民放関係者)
近年は、ドラマに出演して評価を受ける芸人や作家になる芸人まで多芸多才が揃う。まさに無敵の事務所。一方、東京では内村光良、爆笑問題にサンドウィッチマンといったMC番組を持つ芸人が増えてきている。大御所ビートたけしも依然として健在だが、吉本の質と量にはかなわない。テレビ界における吉本1強時代は令和も続く。
(ジャーナリスト・二田一比古)