同志社女子大・影山貴彦氏 エンタメは不要不急でも不可欠
エンタメをバカにして利用した者がエンタメに瀕死の重傷を負わされた
――吉本新喜劇出演に続き、コロナ騒ぎの中、星野源の「うちで踊ろう」のコラボ動画をアップするなど、安倍首相はエンタメを政治利用しようとしているようにも見えます。
意図を全く理解せずに便乗した。あれはエンタメに対する冒涜以外の何物でもない。星野源さんからすれば壮大なもらい事故でしょうし、SNS上で善意のリレーがこれだけ回っているときに、安倍首相が動画をアップして以来、「うちで踊ろう」が一切触れられなくなるほどリレーを止めたのはある意味“すごい力”。三流の構成作家でもなかなかできないことです。支持率を上げるためにエンタメを懐柔しようとした結果、かえって政治家として“本物ではない”ことを拡散させてしまった。「エンタメをバカにして利用した者がエンタメに瀕死の重傷を負わされた」当然の結果でしょう。
――テレビ制作は今後どうあるべきでしょうか。
平時でも再編集や再放送を組み込んでメリハリのある「一球入魂」方式にできたらと僕は思います。しゃかりきになってほぼ全ての時間を新たな内容で埋めてきた結果、「この前、新聞で言ってたみたいなコメントをしてください」と依頼するような雑な取材が増え、ヤラセを生み、責任を取らないプロデューサーが出てきた。ならば業界内の内規で、視聴率何%以上を獲得した作品は積極的に再放送の枠を設けるなど、働き方改革の範囲内で丁寧に作るのはどうかと。
■これからのテレビは「他者に優しく」
――エンタメはコロナ後、どうなっていくのでしょうか。
エンタメの社会的地位向上を図るために、僕はテレビの現場から研究の世界に移りました。エンタメは不要不急だと、ネット上のノイジーマイノリティーに言われれば返す言葉はありません。しかし、もしも人が走馬灯のように人生を振り返るとき、思い出されることはきっと不要不急のものばかりでしょう。人間の心の健康に貢献するもの、そういった「不要だけれど不可欠なもの」を、実は渇望していることにも気づいたのがアフターコロナではないでしょうか。童話の「北風と太陽」の北風のようなバッシングではなく、太陽で旅人のコートを脱がせるように、「これからのテレビ(エンタメ)のテーマは他者に優しく」だと思います。
(聞き手=岩渕景子/日刊ゲンダイ)
▽かげやま・たかひこ 1962年、岡山県生まれ。早大政経学部卒。86年に毎日放送入社、「MBSヤングタウン」ほかテレビとラジオの番組を手掛ける。ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査委員、GAORA番組審議会委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」(実業之日本社)、「おっさん力」(PHP研究所)など。