田崎健太氏寄稿 浅香光代さんは最後まで華のある主演女優

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「この人には恋みたいな感情を感じたことはない」

 と悪態をつきながらいつも仲が良かった。取材では、世志さんがしゃべり続けることが多かったが、常に主役としての浅香さんへの敬意が感じられた。浅香さんが世志さんに手を引かれて現れることもあった。それでも舞台に上がると、彼女の背筋がぴんと伸びて、伸びやかな声を出すことに、ぼくは目を見張った。

 最後に会ったのは、今から約二年前、「全身芸人」の発売記念イベントだった。

 彼女はトークイベントを機嫌よく終えると、ぼくや関根さん、版元の太田出版の社長、編集者たち全員と握手した。特に担当編集者の村上清さんの手のひらが気に入ったようで「あなたの手は女の子のように柔らかいのね」とほほ笑んだ。

 すでに九十歳を越えている大人の女性にふさわしい表現とは言えないかもしれないが、実に可愛い笑顔だった。彼女はその場にいる人を引きつける何かを持っていた。その心のつかみ方に、彼女のたどってきた道が透けて見える気がした。


 浅香光代は、最後まで華のある、主演女優だった。

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