新参の山口洋子は旧態依然とした夜の銀座の革命児だった
■ホステスは教養より若さと美貌
そんな銀座の常識にNOを突き付けたのが、新参の山口洋子だった。「姫」を銀座6丁目の電通通り沿いに移転した頃、洋子は次のように決断する。
「ホステスは少々ばかでも、若くて美しい子ばかりを集めよう」
他店が妙齢のインテリホステスを揃える中、「姫」だけは真逆の方針を採ったのだ。理由はいくつかあった。手だれのホステスが新参の「姫」には集まらなかったこと。どのみち、店を移転したばかりで、他店から引き抜くだけの高給が用意できなかったこと。仮に引き抜いたとしても、20代前半の洋子にとって、年上のホステスは扱いづらかったこと。
しかし、最も重要なのはここである。
「若くて美しい女なら、インテリだろうと、エスタブリッシュメントだろうと、男の方が女に話を合わせてくる」という経験則に基づいた信念が洋子にあったことである。読みは的中する。「姫」には30代の若い顧客が集まった。これまで他店に行っては、古株の客はもちろん、ママやホステスにまで気兼ねしていた若い世代である。事実、文壇も若い潮流が台頭していた。吉行淳之介、野坂昭如、石原慎太郎、五木寛之。彼らは「姫」にこぞって現れた。