映画「トゥルーノース」在日4世・清水ハン栄治監督が描く極限状態の心理
初メガホンとなる清水ハン栄治監督は在日4世で、これまで人権問題をテーマにした伝記漫画シリーズの出版などを手掛けてきたという。製作コストを抑えるため、3Dアニメーションはインドネシアの、映画未経験のアニメーターたちが手掛けたが、ハリウッド映画のような流麗なアニメーションとは違った質感が逆に新鮮だと評価する声もある。
「実際、収容所の不気味な空気感をうまく表現できています。とはいえ拉致問題を抱える日本人にとっては、北の人権意識の低さは周知のことで、それだけでは驚くに値しません。この映画が真に優れているのは、そんな最悪の環境下でも、トウモロコシ数粒を賭けてたわいもない遊びをしたり、見張りの目を盗んでささやかな葬式をしたりなど、人間性を失わぬよう努力する人々の姿を描いたこと。清水監督は製作を担当した『happy―しあわせを探すあなたへ』(12年)で、日本を含む先進国と途上国の最貧民の幸福度が同等だと科学的に突き付け衝撃を与えましたが、そうした幸福心理学の専門家としての視点が本作にも奥行きの深さを与えており、極限状況での生きざまについて考えさせられます」(前出の前田氏)
強制収容所の現実を暴いただけでなく、そこで生きる北朝鮮国民の内面にまで踏み込む問題作といえそうだ。