俳優・演出家 横内正さん「90歳までシェークスピア劇を!」
横内正さん(俳優・演出家/80歳)
「水戸黄門」は格さんとして、「暴れん坊将軍」は大岡忠相として、時代劇で活躍した横内正さんは今月、80歳の傘寿を迎えた。もともと俳優座の出身で2016年からシェークスピア劇に取り組み、来月には4大悲劇のうちの「リア王」「マクベス」を同時上演する。世界最高齢のシェークスピア劇の主演にして、演出も手がける。目標はシェークスピア劇をやり続けることだ。
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僕が初舞台を踏んだのは1964年の「ハムレット」です。シェークスピアで始まり、あれから57年、2度目の東京五輪が行われる年に、こうしてシェークスピアの「リア王」と「マクベス」をやるのは感慨深いですね。
最高齢のシェークスピア戯曲の主演男優といわれますが、キザに聞こえるかもしれないけど、そういう年代という実感はないですね。若い俳優にいつも接しているので、僕自身も若い気分になっているのかな(笑い)。
「リア王」は16年に三越劇場でやって今回で4回目の上演です。あの時は毎年のようにやることになるとは思っていなかった。見てくださった方がそれなりに評価してくれて、みなさんにどんどん知っていただいて、劇場の方も温かく迎え入れてくださるので、僕もついその気になっていますが。今回はとくに若い俳優が多いので、若いファンの方にも来ていただけるんじゃないかと思っています。
去年は夏に「リア王」「マクベス」をやるつもりで絞り込んで準備していたのに、コロナでできなくなり、ガクッときた。虚脱感もありました。コロナがここまで長引くとも思ってもいなかった。去年の段階では今年はコロナが収束すると思って準備してきたので、まさか緊急事態宣言の中での上演になるとは……。いろんな悩みや危惧がいっぱいあって芝居どころじゃない面もあるし、やらなきゃいけない事務的なことも増え、想定外のことに気を使うことになったのは誤算です。
この1年のブランクは、精神的にものすごくきつかったですね。コロナ騒動になって真っ先に劇場でクラスターが発生して、劇場に対する締め付けが厳しくなり、俳優も大変な状況になりました。僕らも仕方がないのでそれに従いましたが、今年もモヤモヤしながら何もできないとなれば、この年齢になって何もなくなってしまいますから。
■事務所の屋上で筋トレと足踏み
僕の場合、気力はあるけど、こもりっきりで出歩かなくなったので体力がかなり落ちて足腰が弱くなった。これは何とかしないといけないというので、事務所の屋上で自分なりにストレッチや筋力トレーニングをやったり、走らず足踏みとかほどほどにやりました。
この間は気を取り直して、もう1回(脚)本を読み直し、手直ししたりいじったりして、いろんな発見もありました。僕は新劇出身ですが、割と早くから商業演劇に参加して、どうやったらお客さんに楽しんでいただけるかも考えてきたので、おかげで今回の仕上がりはこれまでで一番充実していると思います。サービスカットも随所にちりばめているので、シェークスピアもビックリするかもしれません(笑い)。
シェークスピア戯曲は三十数本あります。亡くなった蜷川幸雄さんや平幹二朗さんは全作品をやるという意気込みでおやりになっていました。僕の場合は始めたのが遅かったので、年齢的に相応の役どころを絞り込むとリア王とかマクベスがベストじゃないかな。まさか「ハムレット」とか「ロミオとジュリエット」というわけにはいきませんから。それは若い人にやってもらい、僕は若い人と接しながら、構成や別なポジションで関わるとか。いずれにしても、死ぬまでシェークスピアとは縁が切れないと思います。
来年も再来年も、できれば夏はシェークスピアをやるのが目標です。あまり無理をしないで可能なものだけをチョイスして再演とか、再々演の形でどんどん練り込んでいくのがひとつの方法として面白いかもしれない。
高齢者と若い人のコンビネーションも見どころ
今は舞台稽古の真っ最中ですが、コロナという制約の中で本当に大変です。なるべくコンパクトにパート分けをしてやるけど、芝居の流れをつくることも必要なので、出演者が一堂に会してということもある。私はワクチンを2回接種して他の人に比べて危険率は低いけど、やはり厳しく検査してやらなければならない。だから、毎日の感染者数を聞くたびに高止まりではなく、1人でも2人でも減ってグラフに反映して安定してくれればいいと思います。ステージ2くらいになればそんなストレスやプレッシャーがない中でお芝居ができます。
僕も90歳までは頑張ります(笑い)。高齢の人はお芝居をする気持ちがあっても、表現する場が少なくなっている。それでも、今回出演する文学座の小林勝也さんは78歳、下条アトムさんは74歳。高齢者と若い人のコンビネーションも見どころのひとつ。今はジェネレーションギャップなんて言ってる場合じゃない。身の丈のほどほどのところでやって、ひとつの形を発信していきたいと思っています。
(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ)
■舞台「King LEAR&MACBETH2021」
「リア王」「マクベス」のダブル上演。池上季実子、2.5次元俳優として注目の若手、松村龍之介、瀬戸啓太らも出演。8月5~14日の10日間、全17ステージ(10日間のうち7日間は「リア王」「マクベス」との昼夜2公演)。場所は新橋・ニッショーホール。