<79>早貴被告は急に口を開くと「社長が大下さんに3000万円を渡してくれって」
冗談めかして言った。私はいまだに早貴被告がなぜ突然このように言い出したのか分からない。大下さんを丸め込んで余計なことを言わせないように考えたのではないかと疑っている。
これは事件のカギとなる重要なポイントだ。彼女は言われたら困る何かがあったから大下さんにすり寄り、そして3000万円のエサをぶら下げた、と私は思うようになった。
5月24日に遺体となって発見されたドン・ファンは解剖のために100キロも離れた和歌山市内の病院に運ばれた。25、26日は自宅に遺体はなく、定宿のホテルが満杯だった私はドン・ファン宅のリビングに泊まっていた。この2日間、大下さんと早貴被告は事件の経緯について何度も何度も私に聞かれたのである。仕事を終わって駆けつけたマコやんもリビングで一緒に聞いた。
もう一度、大下さんの話を紹介しよう。
「私が自宅に帰ってきたのは夕方7時半ごろ。早貴ちゃんはお風呂上がりだったようで髪が濡れていて、リビングでテレビを見ていた。TBS系の『モニタリング』の特番だった」「8時半ごろに『ガタン』と2回物音がしたので『早貴ちゃん、社長が呼んでいるんじゃないの』と言った。結局10時すぎに早貴ちゃんは2階に上がり遺体を発見、慌ててリビングにいる私を呼び、一緒に2階に上がった」
これがマコやんを含めた4人でいる時に彼女が言ったことだ。
一方で早貴被告の話は曖昧だった。 (つづく)