五木ひろしの光と影<9>平尾昌晃は三谷謙が一節歌ったのを聞いて「ぶっ飛んじゃった」
それでも、2次予選、3次予選と勝ち上がってくるにつれて本格派ばかりが残り、本戦には、プロも素人も決して低くないレベルの歌手ばかりが出揃うことになる。
とは言いつつ、このとき客席から音合わせを見ていた平尾昌晃は「まあ、みんなうまいと言えばうまいけど、飛び抜けてうまい人はいないな」と高をくくった。プロの作曲家から見れば当然かもしれない。例えばこの時期の平尾昌晃は布施明のレコーディングには、常に立ち会っていた。彼の歌唱力に身近に触れていれば、誰でも自然とそう感じるに決まっている。
そんなときである。格段にうまい青年が現れた。音感、音量、音域と文句のつけようがなく、他の出場者とはレベルが違っていた。このときのことを生前の平尾昌晃は次のように述懐する。
「雰囲気、たたずまいから、素人じゃないんだ。音合わせの段階でもスーツを着ていたんじゃないかな。まあ、プロの歌手の出場者は大体そうなんだ。だから“この人もプロなのかな”ってそう思った。でも一節歌ったのを聴いてぶっ飛んじゃった。めちゃくちゃうまいんだよ」