著者のコラム一覧
細田昌志ノンフィクション作家

1971年、岡山市生まれ、鳥取市育ち。CS放送「サムライTV」キャスターから放送作家としてラジオ、テレビの制作に携わり、ノンフィクション作家に。7月に「沢村忠に真空を飛ばせた男 昭和のプロモーター・野口修評伝」(新潮社)が、第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞を受賞。

五木ひろしの光と影<9>平尾昌晃は三谷謙が一節歌ったのを聞いて「ぶっ飛んじゃった」

公開日: 更新日:

 1970年11月のある日のことである。この日「全日本歌謡選手権」審査員の平尾昌晃はマネジャーの手違いで2時間も早く収録会場である藤井寺市民会館に到着した。当然、楽屋には誰もいない。今のようにスマートフォンがあるわけでもなければ、土地勘があるわけでもない。暇を持て余しただろうことは想像がつく。仕方なく誰もいない客席に座って、ステージの上で行われている出場者の音合わせを眺めていた。

 出場者がバンマスにキー(音階)を伝えてAメロ(歌い出し)だけ歌う。二言三言、確認事項を伝えて「よろしくお願いします」と頭を下げて去っていく。それだけのことだが、みんな人生が懸かっているので思いのほか時間がかかる。その光景を眺めていたのだ。

「みんな、そこそこうまいなあ」と平尾は感心した。それはそうだろう。応募者とはいえ1次予選から勝ち抜いている強者ばかりである。番組人気と比例するように、応募者の数も増加の一途をたどり、番組開始1年後のこの時期は5000人を下らなかった。その合否は番組のディレクターと構成作家が手分けをして判断した。中にはプロ歌手になるより副賞の海外旅行を目当てに参加する素人も多かったし、奇抜な服装で踊ったり、大声をあげるだけの参加者も少なくなかった。であっても一人一人合否を付けるのである。苦行と言うほかない。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    演技とイケオジぶりで再ブレーク草彅剛と「10億円マンション売却説」中居正広氏との“絆”

  2. 2

    泉ピン子が終活をやめたワケ「渡る世間は(水原)一平ばかり!」スペシャルインタビュー

  3. 3

    阪神からの戦力外通告「全内幕」…四方八方から《辞めた方が身のためや》と現役続行を反対された

  4. 4

    キムタク一家の妹Kōki,は映画主演の裏で…フルート奏者の姉Cocomiの話題作りと現在

  5. 5

    かんぽ生命×第一生命HD 人生設計に大切な保険を扱う大手2社を比較

  1. 6

    米田哲也が万引きで逮捕!殿堂入りレジェンド350勝投手の悲しい近況…《苦しい生活を送っていたのは確か》

  2. 7

    イスラエルにあなたの年金が流れていく…厚労省「ジェノサイド加担投資」引き揚げ“断固拒否”の不可解

  3. 8

    坂本花織の世界選手権66年ぶり4連覇に立ちはだかる…国際スケート連盟の「反トランプ感情」

  4. 9

    カーリング日本女子が到底真似できない中国の「トンデモ強化策」…世界選手権では明暗クッキリ

  5. 10

    公表された重点施策で露呈…JR東海の株価低迷と時代遅れの収益構造