<121>野崎幸助さんの「遺言」は公証役場に残されていなかった
「裁判所に提出された兄の自筆という『いごん』の字体を比較するために、公正証書に残された兄のサインを手に入れるのも目的だったんです。提出された時期と同じ時期の公正証書があれば参考になると思って」
■集まり始めた「いごん」の真偽を確かめる資料
後日公証役場から親族に連絡があり、公正証書の複製が送られてきて、私もそれを入手した。似ているか似ていないか、その判断は専門家に委ねることになるが、着々と「いごん」の真偽にまつわる資料は集められていた。
一方、妹さんは田辺に来たM弁護士と一緒に「アプリコ」にも足を運んだ。
「会社のお金が奥さんや弁護士に流れていると耳にしていますが」
妹さんは経理担当の佐山さんに聞いた。
「……」
「どうなんですか?」
「1億円ほどが渡っています」
「一体誰がそれを命じているんですか?」