プレーバック「沖縄芸能50年史」南沙織からフィンガー5、安室奈美恵、黒島結菜まで

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 今や沖縄出身者は芸能界の一大勢力になった。

 そのルーツは62年前、沖縄がまだ米国の統治下だった時代までさかのぼる。

 1960年、初の沖縄出身歌手としてデビューしたのが仲宗根美樹だった。両親は沖縄出身だが、第2次世界大戦の戦火を逃れるため東京に疎開。東京で生まれ育ち、音楽高校を経て歌手の道へ進んだ。

「当時の歌謡界は奥村チヨ、黛ジュンといったポップス系の時代。実質、東京育ちですが、16歳の仲宗根はエキゾチックな顔と沖縄の風のようにゆったり流れる歌唱で人々を癒やした」(音楽関係者)

 61年にリリースした「川は流れる」はミリオンセラーの大ヒット。翌年、「紅白」に初出場。その後も「島育ち」「奄美恋しや」もヒットして人気を博した。キダ・タロー作曲の「有馬温泉・兵衛向陽閣」のCMソングが関西地区で話題を集める珍事もあった。さらなる伸びしろも期待されたが、71年、歯科医師との結婚を機に引退した。

写真だけでスカウトされた南沙織

 入れ替わるようにデビューしたのが南沙織(現・写真家の篠山紀信夫人)だった。普天間基地近くで生まれ育った南と芸能界の出合いは意外な形だった。

「仲宗根の活躍で沖縄に芸能界の目が向けられるようになり、地元テレビ局も視聴者参加型のど自慢番組を放送して新人の発掘をサポートした。この番組の集合写真にアシスタントとして写っていたのが南。偶然、CBSソニー関係者の目に留まりスカウト。母親と共に東京に呼び寄せた。歌も聴かず写真だけで決めたのも、南には沖縄の少女らしい雰囲気があったのだと思います」(地元紙記者)

 音楽プロデューサー・酒井政利を中心に特別プロジェクトが結成され、わずか3カ月という異例の早さで71年6月1日、実年齢に合わせ楽曲も「17才」でデビューした。キャッチコピーは「ソニーのシンシア(月の神)」だった。

「長い黒髪と小麦色の肌、クリッとした瞳。エキゾチックな女の子に男女問わず魅了された。ブロマイドは2年連続1位。アイドル歌手のレジェンド天地真理と小柳ルミ子に南が加わり美空ひばり・江利チエミ・雪村いづみに続く“新3人娘”と呼ばれた。南は翌年の返還に向けて沖縄のイメージアップにつながった」(元芸能誌編集者)

 南も撮影で知り合った篠山氏と結婚。活動8年で芸能界を引退した。

「フィンガー5」は立て続けにミリオン

 デビューから人気沸騰だった南とは対照的に裏舞台でマグマをためていたのが5人きょうだいグループ(一夫・光男・正男・晃・妙子)のフィンガー5だった。具志川市(現・うるま市)で生まれ育ち、「オールブラザーズ」の名で地元テレビのコンテストで優勝。69年東京に進出した。

「兄貴を先頭に自ら基地に売り込み、最初は基地を回って歌っていました。横田基地に近い東村山に住み、福生から横須賀の基地まで回りました。僕と妙子はまだ小学校低学年でした」(メインボーカルを務めた晃氏)

 米軍慰問コンサートをしながら南よりも1年早く「ベイビー・ブラザーズ」名義でデビュー。売れなかったが、たまたまデモテープを聴いた音楽関係者が「これは本物」と沖縄に戻ろうとしていた一家を引き留めた。72年に「ジャクソン5」にあやかり「フィンガー5」に改名して再デビューさせた。

 第1弾ヒット「個人授業」。続いて「恋のダイヤル6700」「学園天国」と立て続けにミリオンの売り上げ。晃が「目立ちたいから」とかけたトンボ形のサングラスは子供にも大人気。歌手関連のグッズが売れる先駆けだった。

直感で分かった安室奈美恵の才能

 仲宗根が歌謡界の門を開き、南とフィンガー5がアプローチの道をつくった頃、ある男が沖縄で動き出していた。

 マキノ正幸──。後の「沖縄アクターズスクール」校長である。マキノは返還前年、初めて沖縄を訪れ、「自然の素晴らしさとエキゾチックな女性の美しさに魅せられた」と沖縄に移り住み、ナイトクラブ経営を経て83年4月、沖縄初の芸能スクールを開校した。安室奈美恵SPEEDDA PUMPら歌って踊るダンスミュージックグループを輩出。一大旋風を巻き起こした。フィンガー5らがつくった第1次沖縄ブームに続く第2次ブームの始まりだった。

「当時の沖縄には米兵らと結婚した日本人女性との間に生まれたハーフやクオーターの子も多くいたことも幸いした」とマキノ氏は振り返っている。

「彼女たちは日本人と違い独特の感性を持っていた。体の芯で取るリズム感が鋭く、踊りにもキレがある。私もジャズやソウルを聴いて育ったので、自分の感性と相性が良かったことで、安室の才能も直感で見いだせた」

 沖縄ブームに沸く芸能界に刺激された沖縄の子たち。第2の安室を目指す芸能界志望者が増えていった。ニーズに応じて芸能学校も続々開校した。

目覚ましい女優たちの活躍

 東京の芸能プロも「沖縄に金の卵あり」と青田買いに走った。

 地元のテレビ局もオーディション番組を取り入れて芸能界への道をサポート。仲間由紀恵も「沖縄タレントアカデミー」から沖縄テレビのドラマオーディション優勝を機に、芸能プロに所属。トップ女優として活躍を続ける。とりわけ最近は女優の活躍が目覚ましい。新垣結衣二階堂ふみ満島ひかりと主役クラスが並ぶ。

 この4月からスタートしたNHK朝ドラ「ちむどんどん」で主演を務める黒島結菜も糸満市で生まれ育った。「沖縄美少女図鑑賞」受賞をきっかけにモデルになり、2013年、映画「ひまわり~沖縄は忘れないあの日の空を~」で女優デビューを果たしている。

「一口に沖縄出身といっても、沖縄で生まれ育った人のほうがハングリー精神もより強いし、“ヤマトンチュウ(本土の人)に負けるな”という気持ちが強い。ダメだったら沖縄に帰ろうという沖縄に対する愛着も併せ持っている」(芸能関係者)

 返還から50年。“ウチナンチュウ”たちは、芸能界にも確実に沖縄の足跡を残している。

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