「芸術祭十月大歌舞伎」尾上松緑主演の新作「荒川十太夫」が今月のベスト
主演の尾上松緑が自らこの講談を歌舞伎にしたいと考えて実現したそうだ。たしかに、こういう役は松緑に向いている。自分をどう見せればいいか、セルフプロデュース能力が身についてきた。
■第一部は満員も…
第二部は松本幸四郎と中村鴈治郎の人情喜劇「祇園恋づくし」。7月にこの2人で大阪松竹座で上演されたばかり。セリフの応酬で、テンポよく進む。大阪では客席も沸いていたが、筆者が見た日は、客があまり入っていないせいもあり、のりが悪かった。舞台というのは観客次第で変わるものだ。
後半は松羽目物の「釣女」で松緑が太郎冠者、幸四郎が醜女。思わぬ収穫が、大名某を演じた中村歌昇。もう子どももいるが童顔で背も低いので、まだ学生のような印象だったが、大音声が出ており、堂々たる出来だった。もっと積極的に役を取りに行き、大役に抜擢されれば、化けるかもしれない。
第三部の前半は中村梅玉の「源氏物語」。「夕顔の巻」を30分ほどの舞踊劇にしてある。
後半は中村芝翫が初めて「盲長屋加賀鳶」に挑む。小悪人のはずの道玄が、芝翫だと、大悪人っぽくなり重くなる。第三部は客の入りが悪い。平日だったが、2割も入っていなかった。
(作家・中川右介)