東京・新大久保「イスラム横丁」のネパール料理店でよみがえった、ざらり。
20代のころ、アメリカやイギリスに足しげく通ってR&Bアーティストとの対面を重ねていたぼくは、そこで得た情報や自分の考えを日本の洋楽雑誌に寄稿したり、FMラジオで語ったりして生計を立てていた。現地では拙い英語を使って仕事をするのだが、それを日本に持ち帰って、忌憚のない日本語で思うままに書き、話す。そのスタンスに何の疑問も抱いていなかった。ファンを名乗る奇特な方々は「タブーなし、怖いもの知らずで気持ちいい」「歯切れがよいところが好き」などと嬉しいことを言ってくれたものだ。
あるファンレターには以下のことが記されていた。「松尾さんにくらべて、邦楽専門の評論家やライターが書く記事は各所を気にしてばかり。甘々の内容でサイテー」。邦楽業界から距離を置いていた当時のぼくには何とも理解しづらい内容。でも妙に気になって記憶していた。
しばらく経つと、ぼくにも邦楽の取材や執筆の依頼が増えてきた。従来通りのスタンスで新しい仕事に向き合ったが、期待したほどの反応や反響は得られなかった。自分では虚飾のない姿勢で日本の人気アーティストたちに接したつもりが、取材後に編集者から「馴れ馴れしすぎだよ」とお叱りを受けたり、「アルバムレビューが手厳しすぎて、これでは営業妨害だ」とレコード会社からクレームが入ったり。