日ソ合作の大作「オーロラの下で」に主演するも映画俳優としての出世作にはならなかった
1990年、役所広司は後藤俊夫監督による日本とソ連の合作「オーロラの下で」に主演する。これは当時の東映、岡田茂社長が8年がかりでクランクインまでこぎつけた大作。1925年のアラスカで、1000キロ以上離れた場所へ犬ぞりでジフテリアの血清を5日半で届けた実話を、舞台をシベリアに変えて映画化したものである。犬ぞりの犬たちをシベリア狼にしたところがポイントで、作品に使える狼探しや調教に時間がかかり、製作は難航を極めた。
撮影は88年5月からクランクインし、90年の2月にクランクアップしたが、ソ連ロケでは雪不足で1年撮影が延びたり、シベリアでは氷点下40度にもなる過酷な環境の中での撮影で、思うように製作は進まなかった。そんな中でも役所は1日6時間の猛特訓を受けて犬ぞりの操作を6日間で覚え、他のスタッフには懐かなかったシベリア狼と犬の混血種の“狼犬”とも仲良くなり、撮影をこなしていった。90年8月に公開されたこの映画は配給収入11億円という結果で、当初の直接製作費の予算が10億円だったことを思えば、興行的に成功とは言えない。翌年の日本アカデミー賞で役所は初めて優秀主演男優賞を受賞したが、この主演第2作は映画俳優として出世作にはならなかった。