日ソ合作の大作「オーロラの下で」に主演するも映画俳優としての出世作にはならなかった

公開日: 更新日:

「アナザー・ウェイ D機関情報」(88年)にしても、「オーロラの下で」にしても器は大きい作品だが、いまひとつ結果が伴わない。映画で伸び悩んでいたこの時期、彼は一人のテレビ演出家と出会う。それが読売テレビで“芸術祭男”の異名を取っていた鶴橋康夫である。鶴橋はがんを宣告された夫に愛人がいたことを知り、苦悩する主婦を描いた「かげろうの死」(81年・日本テレビ系)や、子供が産めないことでアルコール中毒になった主婦が殺人を犯す「非行主婦」(82年・日本テレビ系)、レズビアンの愛人を殺してその肉を食べた女性死刑囚を描く「魔性」(84年・日本テレビ系)など、80年代に浅丘ルリ子主演で人間の暗部をえぐり出した社会派作品を作ってきた演出家。その彼が、野沢尚脚本の「愛の世界」(90年・読売テレビ系)で役所を起用したのである。

 この作品は大竹しのぶ扮する男社会の中で壁に突き当たっていた女性新聞記者が、ある特集記事で注目を集め、記者クラブの連盟賞を受賞するが、この記事に捏造の疑惑が出る。役所は捏造の事実を突き止めようとする、ヒロインの元恋人でもある記者役で、男と女、ジャーナリストとしてのモラルと名誉欲との間で揺れる、2人の関係をシビアに描いたものだ。鶴橋監督は一つの場面でアングルを変えて4つのパターンを撮る。監督は「視聴者と相手役、監督に向けてと、映像の神様に向けて4つ映像を撮る」と言っているが、役所はそんな撮り方をする演出家は初めてで、何度も同じ場面を演じているうちに、余分な力が抜けて自分が自由になっていく感じがしたという。この鶴橋監督独特の演出によって、役所広司は違った側面を見せるのである。 (つづく)

(映画ライター・金澤誠)

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    松本人志「事実無根」から一転、提訴取り下げの背景…黒塗りされた“大物タレント”を守るため?

  2. 2

    島田洋七が松本人志復帰説を一蹴…「視聴者は笑えない」「“天才”と周囲が持ち上げすぎ」と苦言

  3. 3

    人気作の続編「民王R」「トラベルナース」が明暗を分けたワケ…テレ朝の“続編戦略”は1勝1敗

  4. 4

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  5. 5

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  1. 6

    松本人志が文春訴訟取り下げで失った「大切なもの」…焦点は復帰時期や謝罪会見ではない

  2. 7

    窪田正孝の人気を食っちゃった? NHK「宙わたる教室」金髪の小林虎之介が《心に刺さる》ファン増殖中

  3. 8

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  4. 9

    菊川怜が選んだのはトロフィーワイフより母親…離婚で玉の輿7年半にピリオド、芸能界に返り咲き

  5. 10

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇