こまつ座「太鼓たたいて笛ふいて」林芙美子の心の漂泊を大竹しのぶが絶妙に演じ切っている
だが、敗戦間際、信州に疎開していた芙美子は村の集会で「ここまできたら日本はきれいに負けるほかない」と言い切る。「滅びるにはこの国があまりにすばらしすぎるから……」とも。
従軍記者として南京攻略に立ち会い、東南アジアを歴行した芙美子は日本軍の「聖戦」の実体を知ったに違いない。そして、戦後は庶民の日常や悲しみを、ただひたすらに書きつづっていく。タイトルの「太鼓たたいて笛ふいて」は芙美子の内省を指す言葉だ。
「太鼓たたいて笛ふいてお広目屋よろしくふれてまわっていた物語が、はっきりウソとわかったとき……私は命を絶つしかないと思った。わたしの笛や太鼓で踊らされた読者に申しわけがなくてね」
芙美子の波乱の生涯に、文化・芸術に関わる者の戦争責任問題を重ね合わせた井上ひさし。
翻って今の日本。「原発は儲かる」という「大きなものがたり」がとっくに破綻したのに、「原発再稼働」ばかりか、「台湾有事」にかこつけた軍拡という「大きなものがたり」が再び大手を振って歩き始めた。泉下の作者の悲嘆の声が聞こえるようだ。