<9>がんになる細胞とならない細胞の違いはどこにあるのか
がんは遺伝子変異の集積で起こるといわれる。では、遺伝子はどのようにして変異するのか? 喫煙や病気はもちろんだが、日光に含まれる紫外線や、細胞がエネルギーをつくる際に出る活性酸素、お酒の中間代謝物のアセトアルデヒドなど人間の営みの多くの事柄が遺伝子を傷つける。その傷が多いほど、がんになりやすい。ならばより長く生きる細胞の方が、がん化しやすいのではないか。
実は細胞には細胞分裂を50~60回して増殖を停止して死んでしまう細胞と、そうした細胞を一生つくり続ける幹細胞がある。
例えば、ヒトの皮膚は4層からなり、皮膚から一番遠い基底層で生まれた細胞は体表面に移動していき4週間ほどで死んでアカになり、やがて剥げ落ちていく。ところが、皮膚ががんになるために必要な遺伝子変異を蓄積するには長い時間かかる。普通の細胞はがん化する前に寿命が尽きてしまい、がんになれない。
皮膚と同じように短命の細胞はほかにもある。胃や腸など消化管を覆う細胞や赤血球や白血球などだ。
消化管の粘膜は上皮細胞と呼ばれ、赤血球や白血球のような血球細胞とともに、いずれも短命だ。消化酵素や血管に侵入した病原菌などにさらされ、さまざまなダメージを受けるからだ。こうした上皮細胞が枯渇しないのは幹細胞のおかげだ。幹細胞とは、自らと同じ細胞を増やす能力(自己複製能)と、さまざまな細胞に分化する能力(多分化能)を持つ細胞のこと。どこで発生したか、どのような能力を持つかで、いくつかの種類に分かれていて、どんな細胞にもなれる胚性幹細胞や赤血球や白血球といった血液細胞になる造血幹細胞などがある。