桜の下で幸せそうに喜ぶ患者さんを見て思わされたこと
桜が咲くと必ずAさん(当時34歳)という乳がんの患者さんを思い出します。
随分前のことになりますが、私が勤めていた病院の裏庭に桜の木が2本並んでありました。当時は毎年この時季になると、化学療法科(腫瘍内科)病棟の桜の花見の日を2週間ほど前に決めていました。そして、1週間ほど前から患者さんに花見をする希望を聞いておきます。桜の木の下へ花を見に行くことを、ほとんどの患者さんが希望されました。
日程が決まると、天気を心配し続けて当日を迎えます。その日だけは注射などの抗がん剤治療は午後に回しました。看護師は、この日はいっそう忙しく見え、いや、普段よりもっと生き生きと輝いているようでした。
その日は幸い晴れて、暖かい陽に恵まれました。午前10時から準備を始め、その後、患者さんの移動です。病院の裏庭にある桜の木の下に敷くシート、椅子、点滴架台などの運搬から、看護師と医師がカンパして買った飲み物、お団子、お菓子を運ぶことから始まりました。
点滴架台を引き連れて歩く患者さん、車椅子やストレッチャーで運ばれる患者さんなど、さまざまな格好で桜の木の下に集まります。シートに座った患者さんは40人ほど。裏庭の桜は、木の下から見上げても枝はわずかで、花も少ししかなかったのですが、皆さん喜んでくれたようでした。