著者のコラム一覧
佐々木常雄東京都立駒込病院名誉院長

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

桜の下で幸せそうに喜ぶ患者さんを見て思わされたこと

公開日: 更新日:

 Aさんも花見に行くことを希望されました。Aさんは大量の酸素吸入が必要だったため迷いましたが、直前になって少し顔色も良くなり、「桜のところへ行きたい」と言われ、即、連れて行くことを決心しました。

 酸素吸入の音をたてながらストレッチャーに乗ったAさんを、医師と看護師みんなで桜が咲いている枝の真下、花が顔にかかるほどのところまで連れて行きました。Aさんは顔の真上の桜の花を見て、「きれい、きれい」と喜んでいます。

 これまで、呼吸の苦しみやつらさでずっとこわばっていたAさんの顔から、こわばりがまったくなくなって、にっこりと幸せそのもののように見えました。一緒にAさんを運んだ看護師たちと私も、汗を拭きながらお互いにっこりと顔を見合わせました。

 病気の進行は誰も止められません。苦しい、つらい中で、誰もその運命をどうすることもできないのですが、その中でも一瞬緊張が抜ける、一瞬でも幸せを感じることができる――。人間とは、こんなにつらい状況になってもそれが可能なのだと思わされました。

 桜の枝を折って、Aさんと一緒に病室に戻りました。Aさんがあんなに喜ぶなら、もっとたくさんの花がある桜を見せたかったと思いました。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕がプロ野球歴代3位「年間147打点」を叩き出した舞台裏…満塁打率6割、走者なしだと.225

  2. 2

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  3. 3

    “玉の輿”大江麻理子アナに嫉妬の嵐「バラエティーに専念を」

  4. 4

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  5. 5

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  1. 6

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 7

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  3. 8

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 9

    大江麻理子アナはテレ東辞めても経済的にはへっちゃら?「夫婦で資産100億円」の超セレブ生活

  5. 10

    裏金のキーマンに「出てくるな」と旧安倍派幹部が“脅し鬼電”…参考人招致ドタキャンに自民内部からも異論噴出