「ありがとうという言葉は、今日言いなさい」
死について考えることがタブーで、長年連れ添った夫婦間でも、話し合うことを忌み嫌う。だいたい、死ぬなんて不吉なことなど考えたこともない。
「でもね、お釈迦様も王子時代は貧乏とか病気、人が死ぬことも知らなかったのです。お城を抜けて社会に出てから、初めて生きるとはどういうことか、病気になるとはどういうことか、死ぬとはどういうことかを追究しました。多くの説法も残しています。私たちも個々に、自分が送った人生の“ものさし”に合わせた『死生観』を持つことが大事ではないでしょうか。その日が近づいて慌てないように。高齢者になったら、特にそうですね」
こう語るのは看護師僧侶の玉置妙憂さん(写真)だ。
30歳で看護師資格を得て、主に外科医の看護師を務め、8年前に高野山真言宗で1年間の修行を経て僧侶になった。出家した動機は、最愛の主人を病気で亡くしたことがきっかけである。
看護師僧侶という異色ともいえる立場で、これまで、およそ数千人の人を看護、みとってきたという豊富な経験を持つ。