堀田秀吾
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堀田秀吾明治大学教授、言語学者

1968年生まれ。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく、多角的な研究を展開。著書に「図解ストレス解消大全」(SBクリエイティブ)など。

動物にもサンクコスト効果「せっかく○○したんだからやめられない」

公開日: 更新日:

 感情やお金にまつわるシーンで、「ここまでやっているんだから、あとちょっと」と考える機会は少なくないと思います。「好きな人に振り向いてもらうためにおごり続けてきたんだ。こんなところで引き返すわけにはいかない」「こんなに金をつぎ込んだからもったいない。次は絶対に当たるはず」というように。

 しかし、この考え方は泥沼への一歩になるかも。典型的なサンクコスト(埋没費用)効果の状況にあるからです。

 サンクコストは行動経済学の用語で、「投資を続けた結果、回収できない状況になっても、それまでのコストを惜しんで投資をやめることができない状態」を意味します。ギャンブルにつぎ込んでしまったり、お腹がいっぱいなのに元を取り返そうとバイキングで食べ続けたりする。これらはわかりやすいサンクコスト効果と言えます。

 サンクコスト効果が恐ろしいのは、人間だけではないかもしれないという点です。ミネソタ大学のレディッシュらが行った実験(2018年)では、驚くことにマウスやラットも似たような反応を示したといいます。

 マウスとラットは、迷路の四隅にある「エサ場」でエサがもらえるよう訓練を受けていて、エサを与えられるまでの待機時間が、音で知らされる仕組みになっていました。そこではカウントダウンを意味する音が流れ、30~60秒間、ランダムで待たなければならないという仕組みです。

 マウスやラットは、いったん待機状態が始まると、その待ち時間が終わるまで待ち続ける傾向にありました。つまり、エサ場まで“せっかく”たどり着き、その上で“せっかく”待ったのだから、引き返したり、放棄したりできないという行動を示したのです。すでに待っているのだから、最後まで待ち続けよう。こうした状況は、行列に並んでいる人間の心理状況と限りなく似ていると言えるでしょう。

 さらに、たどり着いたエサ場では30秒のときもあれば60秒のときもある。ほかの四隅に移動すればいいものを、わざわざエサが出るのを待つ。まるで人間がラーメン1杯のために1時間並ぶような状況です。もし、その1時間を違うことに費やしていたら……なんて考えるのはヤボかもしれませんが、コストが埋没していくからこそ、引くに引けなくなるのです。

 学習によるしつけの結果とも受け取れますから、あくまで仮説ではあるものの、動物にもコストに対して“もったいない”という気持ちがあるとしたら、人間なら、よりドツボにハマってしまうでしょう。

 一方で、もしもあと少しというところで「売り切れです」と言われたら、失意の感情をごまかすために、「きっと言うほどおいしくなかったんだろうな」などと言い聞かせ、平静を保とうとする。それもまた人間です。

 手に入らない悔しさから、キツネが「どうせこのブドウは、酸っぱくてまずいに違いない」と捨てゼリフを残して去って行く。イソップ物語「キツネと酸っぱいブドウ」の話ではないですが、人間と認知は切っても切れない関係にあるのです。

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