物が歪んで見える「黄斑前膜」は40歳以上の20人に1人が発症…手術を考えるタイミングは?
年をとるにつれ「物が歪んで見える」「大きく見える」といった目の見えにくさの悩みを抱える人は少なくない。老眼を疑いたくなるが、40歳以上なら「黄斑前膜」の可能性もあるという。どういった病気なのか? 東北大学病院眼科特命教授の國方彦志氏に聞いた。
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眼球の奥には網膜と呼ばれる光を感じ取る膜があり、その表面にはゼリー状に膨らんだ硝子体が張り付いている。
加齢とともに硝子体が液化してサラサラになると、網膜から剥がれる「後部硝子体剥離」が起こるが、その際に硝子体の一部が剥がれきれずに残ると、そこで細胞が増殖して薄い膜ができてしまう。これが「黄斑前膜」だ。
「黄斑の中心には中心窩と呼ばれる浅いへこみがあり、小さい物を見るなどの視力に関わる錐体細胞が密集しています。何らかの原因で黄斑前膜が収縮すると、へこみが平らになったり逆に盛り上がり、歪み、かすみ、物が大きく見える症状(大視症)のほか、蚊や糸くずが飛んでいるように見える飛蚊症などが現れます。黄斑前膜は、加齢によって生じる『特発性』と、ぶどう膜炎や外傷によって起きる『続発性』に分けられます。ほとんどは特発性で、40歳以上の20人に1人に見られる身近な目の病気です」
黄斑前膜は、進行が速く失明のリスクが高い加齢黄斑変性とは違い、進行は非常にゆっくりで、放置したからといって失明する可能性は低い。
しかし、進行すると黄斑の網膜が変形して分厚くなり、視力が低下していき、人によっては0.1まで落ちるケースもあるというから注意したい。また、黄斑前膜が片目に発症してそれが軽度だった場合、もう片方の正常な目が補正しようと働き、見え方の異常に気付きにくく、受診が遅れやすいという。
「黄斑前膜は患者さんの病識が薄いのが特徴です。進行して視力が低下したり網膜の変形が大きい場合には、治療をしても視力や歪みなどの見え方を完全に治すことはできません。治療法は『硝子体手術』と呼ばれる手術のみです。黒目の3~4ミリ横に小さい穴を3カ所ほど開け、そこからピンセットなどの器具を挿入して硝子体や増殖膜を取り除きます。見えにくさで日常生活や仕事に支障が出たり、これ以上は視力を落としたくないと思ったら手術を検討してもいいでしょう」