日本の医学者が発見した「オレキシン」研究が切り開いた新時代
覚醒状態の維持に関わる体内物質に「オレキシン」(ヒポクレチンとも呼ばれます)を挙げることができます。オレキシンは、日本の医学者である櫻井武氏(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構)によって1998年に発見された、神経に作用する体内物質です。
発見当初、食事の摂取がない絶食状態でオレキシンの分泌が促されたことから、食欲のコントロールに関わっている物質だと考えられていました。ところが、オレキシンを産生する神経細胞が障害を受けると、覚醒状態を維持できなくなるナルコレプシーという病気を発症することが分かり、オレキシンが覚醒の維持に関わっていることが明らかにされました。ナルコレプシーとは、十分な睡眠にもかかわらず、日中に我慢できない眠気に襲われてしまう睡眠障害です。
その後、オレキシンと不眠症のメカニズムに関心が集まるようになります。ベンゾジアゼピン系薬剤やZ-ドラッグは、脳の活動を抑えることで入眠を促しますが、覚醒状態を促すオレキシンの働きを抑えることでも入眠がもたらされると考えられたからです。
2014年に、オレキシン受容体拮抗薬の「スボレキサント」(商品名:ベルソムラ)が世界で初めて発売されました。スボレキサントは、オレキシンが脳内受容体(オレキシン受容体)に結合するのを妨げることで、オレキシンの働きを弱めます。