インフレ時代の資産防衛はストレスフリーな「オヤジの節約術」 経済評論家・山崎元氏に聞く

公開日: 更新日:

食費を減らすのは「良くない節約」

 ──いまの収入のまま生活防衛するには、節約するしかありません。

 ムダなお金を使わないは基本です。その上で、「オヤジの節約術」を考えてみましょう。確実に節約できて、ストレスは小さく、実害がない。これがいい節約の3原則です。いい節約か、そうでないかを見分ける基準です。携帯電話を格安SIMに変更した場合はどうでしょう。変更後、確実に料金は下がります。近ごろは格安SIMも通話やデータのやりとりに不便を感じないのでストレスは小さい。実害もないのでいい節約です。

 ──悪い例は?

 食費の節約です。飲み会や外食の回数などは月ごとに異なるので、確実な節約にはなりません。それにランチ代を1000円から800円に削ったら、850円の焼き肉定食は食べられなくなります(笑)。これはストレスです。場合によっては食費を削減したために栄養が偏り病気になってしまう実害リスクもあります。良くない節約といえます。また節約のセオリーは固定費の大きい項目から見直していくこと。最大は家賃でしょう。ただ、引っ越しなどを伴うのですぐに見直すのは難しいとなれば、次は生命保険。保険が必要なのは基本的に貯金もなく、親にも頼れない「子どもが生まれたばかりの若い夫婦」ぐらいです。それも保険料は安く、掛け捨ての「ネット保険」で十分。医療保険に入っていなくても、健康保険には高額療養費制度があります。これは一定以上の医療費がかかったときは健保から医療費が還付される制度。だから、高額な医療保険に入る必要はありません。

■今どきのワザ「サブスクを見直す」

 ──見直すべき削減項目は結構ありますね。

 今どきの節約方法も見逃せません。サブスクです。ネットTVやオンラインサロンなど最初の数カ月こそよく利用していても、現在はあまり使わなくなっているサービスはあるものです。それを探していくと、それなりの節約になります。また支払いをクレジットカードにすると便利です。カード明細がほぼ家計簿になるので、不要なサブスクや支出をピックアップしやすい。できれば1枚のクレジットカードに集約したい。現金で管理するよりセキュリティー面や衛生面も優れています。支出の見える化は大切です。

 ──コロナ禍で趣味を充実させたり、何かを収集したりする人が増えました。

「地位財」へのこだわりを捨てるのも節約になります。地位財とは、自分のステータスを表すようなモノで典型的なのは不動産です。100坪の家はそれなりに広いし、世間からみれば十分に満足できる物件です。でも、周りの家が200坪、300坪あると、100坪に住んでいる人は満足できず、幸福を感じません。つまり他人との比較で幸福を得るのが地位財。クルマや腕時計、ファッションなどもそうでしょう。その競争から降りると、気持ちは楽になるし、余計な支出も減ります。地位財から“降りる”選択を検討してみて下さい。

■資産運用はコレ1本でOK

 ──老後資金2000万円問題はどう考えますか。

 実際に2000万円必要かどうかは人によって違います。大切なのは自分にとって必要な老後資金はいくらか。そして計画的に貯めることです。仮に65歳で引退し、85歳まで生きるとしましょう。もしかすると95歳まで長生きするかもしれません。余裕を持って老後は30年とします。30年は360カ月。この360を、ひとつの単位として考えると分かりやすい。もし3600万円の老後資金を持っていたら、毎月10万円を取り崩せる計算です。年金プラス10万円になります。9万円でも大丈夫と思ったら、360万円分を投資などに回せます。

 ──年齢によっても異なるでしょうが、自分は毎月いくら貯めれば老後の不安がなくなるのか。心配は尽きません。

「人生設計の基本公式」というサイトがあります。現在の平均手取り額や、老後の生活費を現状の何%と考えるか、資産額(貯蓄や将来の退職金など)、何歳まで働くかなどを入力すると、毎月の貯蓄額の目安が分かります。例えば年収600万円で老後生活費率を70%、資産額は1500万円、現役年数12年、老後年数20年と打ち込むと、必要貯蓄率は21.15%と出ます。一般的なサラリーマンだと、貯蓄率は15~20%が限界。これに近づくように現役年数を延ばすなどして下さい。

 ──資産運用は「ほったらかし投資」で大丈夫ですね。

 運用とはお金を増やすこと。年齢が違っても目的は同じです。違うとすれば運用する金額と、リスクの取れる金額。運用する対象(金融商品)は20歳も60歳も同じでいい。具体的には改訂版の「ほったらかし投資」で触れているように、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」です。これ1本に絞って問題ありません。ただ、この投資信託はネット証券しか扱いはなく、証券会社の窓口では購入できません。では、どうするか。その場合は、窓口でETF(上場投資信託)の「MAXIS全世界株式(オール・カントリー)」(証券コード2559)を買う。窓口の人が勧める別の商品は決して手を出してはダメです。手数料が高いなど、金融機関が得する商品ばかりだからです。セールスされたときの対処法は「よく考えて、必要があれば、私のほうから連絡します」とキッパリ言うこと。また、どうしても減らしたくない資金は個人向け国債がふさわしいと思います。

(聞き手=矢田正人/日刊ゲンダイ)

▽山崎元(やまざき・はじめ)1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部を卒業。三菱商事、野村投信など転職12回。楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表。「全面改訂 第3版 ほったらかし投資術」(朝日新書)など著書多数。

■関連キーワード

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 暮らしのアクセスランキング

  1. 1

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  2. 2

    20代女子の「ホテル暮らし」1年間の支出報告…賃貸の家賃と比較してどうなった?

  3. 3

    “かつての名門”武蔵の長期低落の深刻度…学習塾「鉄緑会」の指定校から外れたことも逆風に

  4. 4

    「高額療養費制度」見直しに新たな火種…“がん・難病増税”に等しいのに、国家公務員は「負担上限」据え置きの可能性

  5. 5

    論争になった“おじさんパーカ”より「生理的に無理」の声が出たビジネスシーンでのNGアイテムは?

  1. 6

    「フジ日枝案件」と物議、小池都知事肝いりの巨大噴水が“汚水”散布危機…大腸菌数が基準の最大27倍!

  2. 7

    “ホテル暮らし歴半年”20代女子はどう断捨離した? 家財道具はスーツケース2個分

  3. 8

    「ホテルで1人暮らし」意外なルールとトラブル 部屋に彼氏が遊びに来てもOKなの?

  4. 9

    日本で犬肉食の実態は本当にあるのか調査 デヴィ夫人新党が「犬猫食禁止法」成立を看板政策にブチ上げ物議

  5. 10

    鬼怒川温泉の渓谷に張り付く巨大廃墟群を探る…残された「バブル遺構」が物語るかつての栄華

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  2. 2

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  3. 3

    萩原健一(6)美人で細身、しかもボイン…いしだあゆみにはショーケンが好む必須条件が揃っていた

  4. 4

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  5. 5

    “年収2億円以下”マツコ・デラックスが大女優の事務所に電撃移籍? 事務所社長の“使い込み疑惑”にショック

  1. 6

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み

  2. 7

    僕に激昂した闘将・星野監督はトレーナー室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきて…

  3. 8

    日本にむしろ逆風…卓球王国中国で相次ぐトップ選手の世界ランキング離脱と進む世代交代

  4. 9

    「(来季の去就は)マコト以外は全員白紙や!」星野監督が全員の前で放った言葉を意気に感じた

  5. 10

    迷走するワークマン…プロ向けに回帰も業界では地位低下、業績回復には厳しい道のり