【能登半島地震 現地ルポ】孤立集落の82歳女性漁師の訴え「夫が建ててくれた家に住み続けたい」
「ここで亡くなるならなんの後悔もない」
夜はランタンの光を頼りに飼い猫3匹と一緒に布団に入り、暖を取りながら眠る。
現在暮らしている家は、7年前に亡くなった大工で夫の武雄さんが建てたもの。百合子さんはこう続けた。
「1972年に建てたときに、お父さん(武雄さん)は家にいっぱい梁をかけていたわ。地震でその時のことを思い出してね、おかげで酷い揺れにも耐えた。今改めて、お父さんの写真に手を合わせました。お父さんは丁寧な仕事をしとったんよ」
居間からは穏やかな海を見渡せる。武雄さんが残してくれた丈夫な家には、家族で暮らした思い出がたくさん詰まっている。
「先祖代々の力をいただき、ここで暮らしています。ここに生まれ育って、お父さんも3つ隣の村から婿養子に来てくれた。この村から離れるつもりはまったくない。お父さんが建ててくれた家に住み続けたいし、ここで亡くなるならなんの後悔もない。今度、上の娘が退職し、夫婦でこっちに戻ってきてくれる。今はそれが一番の楽しみです」(百合子さん)
故郷に居続けたいと願う住民の思いを、ないがしろにはできない。
(取材・文=橋本悠太、橋爪健太/日刊ゲンダイ)