文芸ファン必読!至宝の校閲秘話開陳
本作りに欠かせない「校閲」の内幕を描いたマンガ「くらべて、けみして 校閲部の九重さん」(こいしゆうか著)が話題だ。老舗出版社・新潮社の校閲部の全面協力のもと、1年の取材を経て読み取った職人の素顔が、ほのぼのとした絵柄で描かれる。
読みどころは、本当にあった作家と校閲者とのエピソード。「石原慎太郎は手書きで原稿を執筆するが極端なくせ字で読める人がほとんどいなかった」ことや、町田康が使う「訣(わか)らない」という独特な表現など、出版社が協力しているからこそ、明かすことのできる裏話が面白い。完成した本からは想像もしないドラマが水面下で繰り広げられているのだ。
作中で舞台となったのは、「新頂社」という架空の出版社・校閲部。モデルとなっているのは新潮社だが、実は、新潮社の歴史は「校正」から始まった。
創業者の佐藤義亮は1895年、17歳のときに文学を志して秋田から上京。数々のアルバイトを経て、印刷所の職工の仕事に就き、夜は勉学に励んだ。そしてある日、彼の投稿文が載った雑誌を工場の支配人が目にし、それをきっかけに校正係に抜擢。肉体労働から好きな文学を扱う仕事に転身した彼は、いつしか出版事業を行おうと夢見るようになり、その8年後に新潮社が誕生したのだ。
長い歴史のなかで、名だたる作家とともに、文壇をつくり上げてきた校閲者。本の読み方に奥行きがもたらされる、文芸ファン必読の一冊だ。