バングラデシュで首相退陣…日本企業進出の“最後のフロンティア”混沌で大慌て
日本支援のMRTに流した涙が引き金に?
日本のODAで建設したMRT(都市高速鉄道)も攻撃の対象になった。その後のバングラデシュの運命を決めたのは、このときのハシナ首相の行動だったと言っても過言ではない。「叩き壊されたMRTの駅舎設備を見てハシナ首相は涙を流しましたが、学生の死については何の言及もなかったのです」(前出の倉沢氏)。“ハシナの涙”は学生のみならず国民の怒りを買うことに。今月4日、デモは最高潮に達し、政権を幕引きに追い込んだ。
15年続いたハシナ政権も近年は独裁色を強めていた。その独裁が経済発展を安定的なものにし、外資を集めたのも事実である。現在、同国には315社の日本企業が進出し、1122人の日本人が生活をしている(数字は外務省)。「近年はバングラ経済も7%台の成長を遂げ、日本人数も倍に増えました」(元駐在員)。バングラデシュは穏健なイスラム国家で親日国でもあることから、2010年代から「チャイナプラスワン」(中国リスクを回避するための生産拠点の分散)の選択肢となってきた。
「空白地帯にどんな勢力が入り込むかは未知数」という声もあるが、「学生が独裁をひっくり返すパワーは注目に値する」と話す日系工場経営者も。暫定政権の首相顧問に、グラミン銀行創設者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏(84)が就く見通しだ。日本企業進出の“最後のフロンティア”とも言われたバングラデシュの、一喜一憂を注視したい。
(取材・文=姫田小夏/ジャーナリスト)