ネスプレッソもジレットも本体販売で儲けていない…「長く使ってもらえる」商売が圧倒的に強い理由

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解約手続きをあえて面倒にしている

 もう20年以上前になるだろうか。ソフトバンクが駅前で大量のADSLモデム(ADSLとは光回線以前のネットワーク通信回線のこと)を「Yahoo! BB」と銘打って無料で配っていたのを記憶している年配の人もいるだろう。大量のアルバイトを雇ってあんな高そうな機器を無料で配って大丈夫かと思ったものだが、この事業に関わった三木雄信氏によると、顧客獲得までのプロセスを3つのフェーズに分け、緻密なシミュレーションのもと実行した戦略だったようだ。

 ランニングコストで稼ぐビジネスモデルの肝は、「スイッチングコストを上げる」ということだ。スイッチングコストとは、お客さんがメーカーを切り替えるための費用や手間のことで、お客さんにとっては「メーカーを変えにくい」、メーカーにとっては「お客さんとの契約を維持しやすい」手法だ。途中解約料を取ったり、解約するための手続きを面倒だと感じるようにするわけだ。

 メーカーのホームページを見ても、「解約手続き」をどこでどうやればいいのか調べづらいのは、ホームページの設計が下手なのではなく、あえてわかりにくくしているのだ。

 ビジネスを「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」に分けて、安いイニシャルコストで顧客をつかみ、ランニングコストでその顧客から安定的に収益を得る。

 商品の開発者やデザイナーは機能やデザイン性の優れた商品を作って、新しい顧客にいかに買ってもらうかを重視しがちだが、一度買ってもらったら、お客さんから「いかに長く利益を得やすい」状態を作るかが重要になる。

 シャープペンシルと芯。
 バインダーとルーズリーフ。
 インクジェットプリンターとインク。
 電動歯ブラシと替えブラシヘッド。
 エスプレッソマシンとカートリッジ。

 最近は、サブスクリプションモデルのビジネスが数多くあるが、スイッチングコストがそれほど高くなく、気軽に乗り換え可能だったりする。上記のモノは愛着さえ持ってもらえれば使い続けてくれる面もあるだろう。

▽下地寛也(しもじ・かんや)コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント・エスケイブレイン代表

1969年神戸市生まれ。1992年文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。デスクや会議室の配置などの「分け方」を研究したことをきっかけに、社会のさまざまなコト、モノ、サービスの「使いにくい」「わかりにくい」といった問題点は「分け方」で「しやすい」に変えることができるという提案をするように。現在はコーポレートコミュニケーション室の室長と同時に新しい働き方を模索して複業ワーカー(エスケイブレイン代表)としてのビジネススキルに関するセミナーや講演、YouTube動画配信などの活動も積極的に行っている。著書に『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)、『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)など。

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