本田圭佑「虚像と実像」(7)“オレ様”スタイルに磨きをかける
「一番のヘタクソ」が白い目を無視して作り上げたスタイル
関西のエリート集団「ガンバ大阪ジュニアユース」の中で本田の立ち位置は、そもそも下から数えた方が早かった。それどころか、「ウチで一番ヘタクソなんは誰や?」という話題になると名前が挙がることも珍しくなかった。
プロ予備軍のジュニアユースで「ヘタクソ」は致命的である。中学生年代のメンタルは、今も昔も、もろくてはかない。深く悩み、傷ついた本田だが、監督やコーチに向かって「どうすれば上手になれるんや?」と涙ながらに聞いて回るということは一切なかった。
むしろ悲愴(ひそう)感もなく、自信満々だった。急激な体の成長によって肉体と精神のバランスを崩す「クラムジー」の影響で、動きたくても動けない。その中で出来ることを懸命に探した。
「走れないなりにパスの精度、キックの正確性を高めればいい。オレの蹴ったボールでチームメートを動かせばいい」
コーチから「運動量が少な過ぎる」と叱責されようが、本田は「パサー」に執着した。パスを出し、指示を送る。その場でふんぞり返り、オレ様然として悦に入る。当然、試合にはほとんど出られない。それでも本田は意に介さなかった。周囲の冷たい視線を無視しながらキックのバリエーションを増やす。ボールを止めてキックするまでのアイデアを考え、ボールをキープする球際の厳しさに磨きをかけた。確固たる《本田スタイル》を築き上げ、「一日でも早く世界で活躍したい」という気持ちも固めた。