89年日本シリーズの舞台裏を当時の投手コーチ中村稔氏が振り返る
ところが、巨人は3連敗。0-3で負けた3戦目。勝利投手となった近鉄の加藤哲郎(現解説者)にはインタビューで「今の巨人なら(パ・リーグ最下位の)ロッテの方が強い」とまで言われてしまった。
巨人は81年以来、日本一から遠ざかっていた。親会社のトップは居ても立ってもいられず、密かに藤田監督を訪ねてきたのだ。前代未聞のことである。
務台名誉会長は藤田監督に「負けるわけにはいかんぞ」と言い、「中村君、(4戦目の先発は)どうするんだ?」と尋ねてきた。
第4戦の先発予定は香田(勲男=現阪神コーチ)。その年、7勝(3敗)を挙げていたが、シリーズは初登板だった。
初戦で敗戦投手になった斎藤はこの年、11試合連続完投を含む20勝を挙げたエースだ。中3日で起用する手もあった。
中村氏がこう振り返る。
「務台会長のおっしゃりたいことは察しがつきました。それでも『当初の予定通り、香田でいきます。調子がいいし、コースにきっちり投げれば抑えられます。斎藤に代えて勝つかも知れませんが、その後はわかりません。香田で勝てば4連勝できます』と務台さんに説明しました。務台さんは心配そうでしたが、藤田監督が『中村がこう言っているので任せてみましょう』と援護してくれた。それで務台さんも納得してくれました。香田で負けて4連敗なら、辞表を出すつもりでいました」