返事だけ「ハイ!」ってのが多い。来日して二十何年、日本人も変わってきてるのが分かるよ
弟子に望むことを聞くと「一生懸命やって欲しい。やいやい言われて、じゃなくて、自分が思っていることを、出し切って欲しい」という武蔵川親方。つまりは、やいやい言わなければならない日々なのだ。嫌にならないのだろうか?
「ならないよ(笑い)。注意するのが私の立場だから。家庭で教えることを相撲部屋に入ってからやろうと思ってもできないけど、少しずつ言うんだよ。少しずつやらす。それで、できれば増やしていく。たとえば腕立て伏せ。最初は10回できない。だから、まず5回。それがちゃんとできるようになったら10回させる。できる人と、できない人がいる。できない人はできるまで少しずつさせる。
昔の人みたいにはできないんだから、変えていかないと。比べちゃダメ。一緒にしちゃダメだよ。新弟子だったころの俺ができたことの半分もできないけど、比べちゃダメ」
生まれも育ちも年齢も違う弟子たちが一つ屋根の下で同じ釜の飯を食って共同生活しながら稽古し、出世を目指す。大家族生活で助け合っていくことによって相撲の技量だけでなく、挨拶に始まる人間関係のスキルも鍛えられていく……古き良き日本の文化・習慣が今も残っている大相撲の世界。だから単なるスポーツとは異なるのだ。