平成から令和へ 八角理事長が描く「新時代の大相撲」とは
苦労も充実感も倍
江戸時代からの相撲文化を継承し続けている日本相撲協会。近年は満員御礼が続くなど盛り上がる一方、元顧問の背任行為や貴乃花の造反、暴力問題と、平成は激動の時代でもあった。元号が令和に変わったいま、舵取り役の八角理事長(元横綱北勝海)は、新時代に向けてどんなビジョンを描いているのか。
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――理事長にとって、平成はどんな時代でしたか。
「まず、思い出すのは1989年、つまり平成元年の1月場所で優勝したことですね。前年夏場所の千秋楽と、続く3場所を休場と苦しんでいた時期。それだけにうれしかったですよ。87年に横綱に昇進して、92年に引退。横綱時代の5年間は死に物狂いでやって結果を出せた。苦しかったけど、充実していました。もう私の人生でこれ以上のことはないだろうと思っていたんですが、私が理事長になった時期が時期ですから(2015年)。大変さで言えば現役時代の倍ですが、いまが一番充実していると思いますね」
――元顧問・小林慶彦氏に対する損害賠償請求の訴訟は、請求金額が当初の約1億6500万円から、今年に入って約3億8600万円と倍以上に膨らんだ。つまり、無駄な工事も多かったということですか?
「そうですね。私は建設の素人ですし、まだ裁判で係争中なので詳しいことは言えませんが……」
――小林氏は協会の採用辞令も偽造していた。
「彼は裁判でもウソをついていましたからねえ……」
――元横綱日馬富士に代表されるような暴力事件も世間で注目された。スポーツ庁の鈴木大地長官に呼び出されたこともあった。
「暴力排除、再発防止には全力を挙げて取り組んでいます。とにかく講習を根気強く、何度も何度もやらないとダメなんです。この世界のことを知らない新弟子はもちろん、講習を受けても忘れてしまう力士もいる。親方衆も同様です。だから、毎年毎年、暴力撲滅の講習をしなければいけません。いまはだいぶ風通しがよくなっていますよ。最近は、『部屋で15、16歳の子たちがケンカをしている。これも危機管理部長やコンプライアンス委員会に上げるべきなのか』という意見もあった。暴力はいけませんが、相撲部屋は子供たちが集まる場でもあるので、いざこざは起きるもの。イジメではないケンカなら、多少は仕方のない面もある。そうしたことも隠さずに判断を仰ぐのは、少しずつでも協会が前進していることだと思います」
■千代の富士さんは「オレを殺す気か!」
――関取が付け人を殴るケースがありましたが、そういった部分も改善しなければならない。
「私は『関取には付け人に稽古をつけ、強くする義務がある』と教わってきました。付け人は単なる小間使いではない。『明日の朝稽古は早いんだから今日はもう休め』とか、考慮してやらなくてはいけない。そうやって初めて、付け人は関取に感謝をする。そもそも、付け人は関取の弟子ではなく親方の弟子ですからね。そうした勘違いも正すよう努力しています」
――ちなみに理事長の付け人時代は?
「私は千代の富士さんの付け人でしたが、付け人としては落第生。気が利かないものですから(笑い)。師匠(元横綱北の富士)の付け人をしていた時代の話ですが、『風呂の用意ができました』と師匠を呼びに行った。師匠はかけ湯をせず、ざぶんと湯船に入った。そうしたら、水のままだったんですね(苦笑い)。師匠には『おまえ、オレを殺す気か!』と怒られました(笑い)。それが一番の失敗ですね。千代の富士さんのときは何か言いつけられることもほとんどなく、『ちゃんこ番? いいから、おまえは稽古しておけ』と。稽古はマジメでしたから。ただ、ぶつかり稽古で『まだ足りないのか! 明日やってやるから、今日はもういいだろう』と叱られたことはあります。そうは言われても、こっちも意地があるので、またぶつかっていくんですけどね」