平成から令和へ 八角理事長が描く「新時代の大相撲」とは

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100年先まで継承することが使命です

 ――近年は人気に比例して本場所のチケットが取りにくくなっており、転売も横行している。さらに前売りはネット販売のみという形態で、年配のファンから「買いにくい」という声も出ている。

「転売防止には全力で取り組んでいます。他のコンサートやイベントなどでは、チケットの本人確認が必要など、転売不可能なものもある。そうしたことも参考にしています。チケットの販売形態については非常に難しい問題ですね。大相撲を何十年と支えていただいたファンも大事にしなければいけませんし、年配の方がネットで購入しにくいのは事実。何とか、万人が納得できるような形を提示できればと模索しているところです」

 ――協会に損害を与える勢力の排除、時代に合わせた組織の変化など、改革は順調ということですか。

「今は外部理事をはじめ、さまざまな人の協力で組織の基盤を整備しています。去年だけで協会内の規定、規約などに新規制定15件、一部変更が22件あります。こうした地道な努力こそが、組織改革になる。派手にやることが改革ではありません。大相撲には、今の時代に合わせて変えていかなければいけないこともあれば、絶やしてはいけない伝統もある。例えば、験担ぎのヒゲ禁止もそうです」

■勝ち負けと同じかそれ以上に様式美が大切

 ――これまでヒゲ禁止は暗黙の了解でした。

「なぜヒゲがダメかと言えば、相撲は相手と、肌と肌が接触しますよね?つまり、余計に身なりを奇麗にしなきゃいけないんです。ただ、明文化しないと『そんなルール、どこに書いてあるんだ』となりかねない。私たちの世代の常識と、今後入門してくる力士の常識は違いますからね。確かに四角四面じゃ力士の育成は難しい面もありますし、曖昧だからこそ良い点もある。でも、今はこういう時代ですから。相撲の伝統文化を守るためにも必要なことです。そもそも、大相撲はスポーツとは別の側面もありますから」

 ――と、言いますと……。

「私は大相撲とは歌舞伎や能と同じ、日本の伝統文化たる側面が強いと思っています。スポーツなら、移動はジャージーなど楽な格好もアリですよね? でも、力士は外出時は必ず着物を着る。チョンマゲだって、合理的に考えれば丸刈りの方が楽です。行司さんにしても、わざわざ動きにくい装束を着て、取組を裁いている。立ち合いもそうです。ヨーイドンで立つのではなく、相手と呼吸を合わせて立つ。つまり、様式美なんですね。そこに激しい稽古、土俵内の戦いが加わることで、さらに魅力的になっている。勝ち負けも大事ですが、それと同じかそれ以上に伝統文化の面が強い。そうした伝統や所作といったものを大切にしてきたからこそ、ファンがいて、外国からもお客さんが来てくれる。江戸時代から続く文化を受け継ぎ、次の人に渡す。時代は新しく変わろうが、100年先も大相撲の文化をつなげていくこと。それが我々の使命です」

 ――昨年1月場所の栃ノ心にはじまり、7月場所の御嶽海、11月場所の貴景勝、そして今年1月には玉鷲と、初優勝力士が続出した。こうした土俵上の「戦国時代」はまだまだ続きそうですか。

「過渡期ではありますね。若手が元気なので序盤戦からいい取組が増えた。そんな若手に刺激されて、横綱大関も頑張っている。もちろん、初優勝ばかり続くかというと、そんなことはない。先場所は『そうはいかんぞ』と言わんばかりに白鵬が優勝した。そうすると、一段と土俵が引き締まる」

 ――5月場所から大関を務める貴景勝はどうですか。

「関脇時代は上位力士を見上げながら相撲を取っていたが、大関となれば気持ち的にも変化があるでしょう。それでも、勇気をもって前に前に攻められるか。受けて立つ意識になると足が出なくなる。前に押していく相撲は精神的にもきつく、苦しい。私も同じ押し相撲だったので理解できます。ただ、馬力のある力士に押されるのは、相手にとっても一番嫌なんです。貴景勝には前に出る相撲というものを突き詰めてほしいですね」

(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ

▽はっかく・のぶよし 1963年、北海道生まれ。第61代横綱・北勝海。初土俵は79年。87年に横綱昇進。幕内優勝8回。92年に引退。翌93年、九重部屋から独立、八角部屋を立ち上げた。2012年から相撲協会理事。広報部長などを務め、15年12月から現職。

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